小説

『傾国』椎名爽(『刺青』谷崎潤一郎)

 飲み会から一週間経っても、坂本はサークルに来なかった。連絡もつかない。
「なあ、坂本と連絡つく?」
「いや? 全然既読つかない。でもまあ、忙しいだけなんじゃねえの? バイトとか、彼女できたとか」
サークル内に坂本と連絡がつく人はいなかった。少々不安だが、坂本のことだから大丈夫だろう。
「なあ、今日みんなで飲みに行こう。もう俺、メッセージ一斉送信したから皆来てくれると思う。清原も来てくれるよな」
「どうせ行かなきゃだめなんだろ」
あまり気乗りはしなかったが、参加しなければいろいろと文句を言われそうだ。俺は渋々参加することにした。
「清原君」
後ろから声がした。園田さんだった。同学年だという事が分かってからはタメ口で話してくれるし、たまに喋るくらいの仲になった。
「今日の飲み会、行く?」
「うん」
「私も行くんだけど、ちょっと怖くて…。隣に座ってもいい?」
「いいよ。無理しないでね」
頼ってくれるのがうれしい。サークルが終わり、俺たちは居酒屋に移動した。

 今回の飲み会は前回よりも落ち着いていて、まだ楽しめる方だったが園田さんは前回同様おびえていた。
「怖いなら帰ってもいいんだよ」
「うん…。実はね、私、愛実ちゃんと瑠莉奈ちゃんに飲み会に来るように言われちゃってて」
女子二人の方を見る。二人は楽しそうに話していたが、時折園田さんの方を見た。俺は昔見た歴史物のドラマを思い出した。弱い立場の侍女をいじめて楽しむ、意地の悪い女官たちの目つき。一気に居心地が悪くなった。
「園田さん、一緒に出よう。飲み会なんて、無理して参加する必要ない。あの二人には俺がちゃんと言っとくからさ」
「……うん」

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