私は商店街を逸れて路地に面した入口から公園に入り、俊太の背後の垣根に身を隠した。ここなら占いの内容が耳に届く。
意外にも客はすぐにやって来た。
「最近仕事がうまくいかなくてさ。どうすれば昇進できるか占ってくれよ」
声の様子から酔っ払いの中年だと察した。
「わかりました。では、髪の毛を一本拝借できますか?」
「最近、薄くなってきてんだよなぁ・・・・・・イテッ」
「ありがとうございます。では、見てみます」
訪れた沈黙に毛根を凝視しているのが想像できた。
「出ました」
「おー、どうだい? 何かわかったか?」
「申し上げにくいのですが、今の仕事は向いてませんね。転職するのが良いかと」
「ん? なんだって?」
「つまり、このまま続けても明るい将来は期待できません」
おいおい、普段ははっきり意見を言わないくせに、なんでこんな時だけズケズケと商売っ気のないことを。
「なぁ、にいちゃん。俺は今の会社で二十年も頑張ってんだ。それを今さら辞めろだなんて、そんないい加減なアドバイスしかできないのか?」
ごもっともだ。
「しかし、そう結果が出てますから。僕は占った通りのことしか言いません。お気に召さなかったら、ここに書いてあるようにお代は結構です」
「もういい! 二度と来ないからな!」
私は声を押し殺し右手で顔を覆った。ほんと、アホな奴だ。せっかくの客なんだから、気分が良くなるようなことを言っておけばいいものを。だから稼ぎが少ないことに気付いちゃいないのだろう。やっぱり別れて正解だった。
それでも次の客はやって来た。
「あの、初めてなんですが・・・・・・いいですか?」
若い女性の声からは悲壮感が滲んでいた。