小説

『ウラもおもてもナイ』ウダ・タマキ(『別後 野口雨情』)

 「何を占いましょう?」
「実は私、婚約したんですが・・・・・・いざ披露宴や新婚旅行の打ち合わせをしてると、どうも彼の傲慢さが気になって。本当に大丈夫かな、って」
 それはどこかで聞いたことのある声ではないか。私はゆっくりと腰を上げて垣根の隙間から覗き込んだ。俊太の後頭部の向こう、僅かに見えた女性は綾香だった。あんなに幸せそうだったのに縋るような視線を俊太に向けている。
「わかりました。では、髪の毛を一本いただけますか」
「はい」
 沈黙に私の胸までざわざわと落ち着かない。
「気を付けないといけませんね」
「えっ?」
「結婚を控えて嬉しいのはわかりますが、少し落ち着きましょう。しっかりと人の話に耳を傾けることが大切です。おねえさん、最近、友達が離れていきませんでしたか?」
「いえ、そんなことは・・・・・・」
「気が付いてないだけですよ。友達も彼氏も、今のあなたの態度に少しうんざりしているかもしれませんね。まず、その友達との関係を修復することです。彼女はとても素晴らしい人だと出ています。きっと、これからの人生で良き助言者となり得る人物でしょうね」
 それって、私のこと? 良いこと言うじゃんか。
「なんとなくそうかもですね。浮かれすぎてたのかも。うん、ちょっと冷静にならないとね」
「ええ。それに気付けたおねえさんの未来は明るいですよ」
「ありがとうございました。これ。お釣りは結構ですよ」
「い、いや、多すぎです」
「彼女さんとご飯でも食べて下さい」
「僕、フラれたばかりですからぁ! ちょっと、おねえさん!」
 裏も表もない馬鹿正直で不器用なヤツ。だけど、私は俊太のそんなところを好きになったんだっけ。
 夜風がひんやりと心地いい。どこからか金木犀の香りが漂ってきた。
「しゃあないなぁ、許したろか」
 今日のラッキーアイテムの眼鏡があれば、全てはうまくいく気がした。

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