小説

『それはズルい』真銅ひろし(『蜘蛛の糸』)

 この4ヶ月近くずっと朝早く起きてランニングをしてきた。始めはきつかったが、最近では苦も無く3、4キロは走れるようになっていた。
「本気で走らねぇの?」
 隣についた柴田が声をかけてくる。
「別に。まだ行かない。」
「あ、そう。それじゃあ先に行っちゃうぞ。」
「お好きにどうぞ。」
 柴田はこの言葉にニヤッと笑い、そしてベンチにいる清華を一瞥してスピードを上げて走って行った。
「・・・。」
 清華を見ると姿勢よくジッと走っているこちらを見つめている。何を考えているのか?何を見つめているのか?何も感じ取る事は出来ないがとにかく座ってこちらを見ているだけでも絵になる綺麗さだ。
 少しだけスピードを上げた。
 ―――――順調な走りだった。体力がまだまだ残っている所で残り3周を切った。そしてここから追い上げて行こうと言う時に事が起きた。
「ちょっと待ってくれ・・・。」
 ジャージの背中部分をグイッとひっぱられた。驚いて振り向くと柴田が半笑いでこちらを見ている。
「何だよ。離せって。」
「なぁ、一緒にゴールしようぜ。」
「冗談やめてくれよ。」
「マジで。俺疲れちった。」
「知らねぇし。」
 振り払おうとしてもなかなかの力で掴んでくるので離れない。
「マジでやめろって!」
 思いっきり手で叩き落としたらようやく柴田の手が離れた。変な所でロスをしてしまったので急いで前を追いかける。
「・・・。」
 前の連中はほとんどスピードが落ちてきている。どんどんと抜かしていく。
 一人、二人、三人、と順調に抜かして行ったときにまたしても他の男子達に捕まった。三人いた。
「霧島・・・一緒にゴールしようぜ。」
「そうそう。練習なんだし。」
「マジにならなくもいいんじゃない?」 
 口々にこちらの走りを邪魔するような言葉をかけて来るが、どいつも息が上がっていて限界そうに見える。
「嫌だ。」
 そう言って抜き去ろうとした。しかし三人は自分の前に立ちはだかり抜かせようとしなかった。
「ちょっとやめろって。どけって。」
 横にズレても、同じように三人も横にズレる。これでは最後まで抜けそうにない。
「なんなんだよ!」

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