小説

『それはズルい』真銅ひろし(『蜘蛛の糸』)

 この日からクラスの男子全員が敵になった。

 頭を何かで叩かれる感触。重たいまぶたがかすかに開く。
「霧島、授業中に寝るな!」
 ぼんやりと大きい声が聞こえてくる気がする。
「霧島!」
 二度目ではっきりと聞こえて、勢いよく体を起こす。
「はい!すいません!」
「最近他の授業でも寝てるそうじゃないか。しっかりしろ!」
「すいません。」
 目頭を強く抑えながら眠気を覚ます。やばい。また寝てしまっていた。
「・・・。」
 周りの女子から微かに視線を感じる。心の中で笑われている感じだ。しかし男子からはそんな雰囲気が伝わってこない。
『そのまま永遠に寝ていろ。』
 逆にこんな言葉が聞こえてくるようだった。間違いなくこの前の清華に発言が原因だと分かる。ライバルを一人でも消しておきたいのだろう。

 いつも昼飯後はカフェオレを飲んでいた柴田が、いきなりプロテインに変わっていた。
「なんでプロテイン?」
「え?何でだろうな。なんとなく。」
「・・・。」
「っていうか霧島はなんでこの頃授業中寝てんだよ。」
「え、ああ、まぁ、なんとなくかな。」
「この前の清華の言葉を真に受けて朝走ってたりしてんじゃねぇの?」
「・・・は、走ってねぇし。っていうか清華の言葉ってなんだよ。」
「・・・べ、別になんでもねぇし。」
「・・・。」
 気まずい空気が流れる。
 だが、柴田も清華の言葉を真に受けた事はハッキリと分かった。

 そして数日がたった頃、クラスの男子全体が動き始めた。
 自分のように朝走っていると思われる者、昼休みと放課後に走っている者、休み時間に筋トレしている者、プロテインを飲んでいる者、それぞれが今度のマラソン大会に向けてであろう何かをやりだした。
「なんか最近の男子怖くない?何で急に筋トレとか走ったりしてんの?」
「なんかキモい。」
「汗臭いからむやみには走らないで欲しいんだけど。」
 女子からこんな声が聞こえてくる。
「・・・。」

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