小説

『それはズルい』真銅ひろし(『蜘蛛の糸』)

 そう言って最後にとっておいた力を振り絞り、大きく横に膨らんで全速力で三人を振り切った。
 かなりきつかったがそのまま全速力でゴールした。
「・・・。」
 結果は3位。
 邪魔さえなければきっと一位争いには行けたはずだ。
「くそっ・・・。」
 文句を言ってやりたかったがやめておいた。今日が本番ではない。それに清華の前で喧嘩なんて見せられない。それに邪魔する奴がいるというのが分かっただけでも勉強になったのかもしれない。
チラッと清華を見る。
パチパチパチ。
彼女は優しい顔でこちらに拍手を送ってくれていた。

――――そしてマラソン大会当日。
学年総数180名近く。全員が10キロを走りぬく。
「柴田、今日は邪魔するなよ。」
 とりあえず念を押しておく。
「分かってるよ。お前怖いよ。」
「邪魔するからだろ。今日やったらマジで怒るからな。」
「分かった分かった。」
 苦笑いしながら柴田は小さく両手を挙げる。他の男子にも一応柴田のように念を押しておいた。これでとりあえず予想される邪魔者はいなくなった。
「よし。」
 大きく深呼吸をする。そして清華の姿を探す。
「・・・。」
 友達と談笑しながらストレッチを行っている。
 今日一着を取れば必ず清華は自分を見る目が変わるはずだ。
「それじゃあ位置について!」
 時間が来た。先生が大きな声で号令をかけスターターピストルを上に向ける。
「よーい・・・。」
 一瞬静けさが広がる。
 パンっ!!
 ピストルの音と共に一斉に走り出す。ペース配分、仕掛けるタイミング、その事だけを考えて一心不乱に走った。

――――信じられなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
 息が上がって上手く呼吸できない。
「・・・。」
 一着でゴールしたのは清華だった。
「嘘だろ・・・おい。」
 彼女はにこやかに一着の旗の所に座っている。
「・・・。」
 汗を拭いている彼女はいつものように優しく微笑んでいた。

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