しかしそんな言葉で誰も止まらない。マラソン大会で一位になる事が清華に好意を持って貰う確実な方法なのだ。
チラッと清華を盗み見る。
彼女は友達と談笑し、優しい顔で笑っている。
マラソン大会が近づいた体育の授業。担当の橋爪先生が大会の模擬練習を行うと言った。
「ええ~。」
嫌そうに女子達は声を上げる。しかし男子は誰も否定の言葉を言わなかった。
「珍しいな。男子は誰も嫌がらないんだな。」
橋爪先生は苦笑しながら言ったが、男子は誰も笑わなかった。逆に言い知れぬ闘志のようなものが自分を含め男子陣から感じられた。
本番の大会の距離は10キロ、そして今回の模擬練習は4キロ。校庭のトラックを10周。
クラスの男子の人数は14人、そしてザッとではあるが学年の男子の人数は90人近くいるはずだ。たぶんここで一位にならなければ絶対に本番で一位になる事は不可能だ。
「あくまで模擬だからな。気分が悪かったり、怪我とかしたら無理せずに中断するように。」
そこから全員でストレッチを行った。しかし清華だけは担任と何やら話し、そこから校庭のベンチにテクテクと歩いて行き腰かけた。
「なんで清華休んでんだ?」
ペアの柴田がこちらの背中を押しながら質問してくる。
「知らない。具合でも悪いんじゃないか?」
「大丈夫かな。」
「大丈夫じゃないから休んでんだろ。」
「それも含めて大丈夫かな。」
「言ってる意味がよく分かんねぇ。」
「そうか?心配してるだけだけど。俺も休もうかな。」
「何言ってんのお前。サボるなよ。」
「まぁ、そうだよな。」
「当たり前だろ・・・。」
柴田に一抹の危うさを感じた。直接話しかける事こそまだしていないが、こっちと話をしていてもよく視線を清華に向けるようになった。
「・・・。」
そしてそれ以上は柴田と会話をせずストレッチを終えた。
「よーし、それじゃあいくぞ~。よ~い・・・。」
橋爪先生が大きく手をあげて勢いよく振り下ろす。それと同時に笛を吹いた。
自分たちは勢いよく走り出した。始めから飛ばす者、焦らずマイペースで走る者、やる気なく走る者、それぞれがそれぞれの思惑の中で走り出す。しかしそれは男子だけの場合で、女子はほとんどがやる気なく走っている。
「・・・。」
自分は始めゆっくりで、ラストに追い込もうと決めていた。離されず、追い越さず、ギリギリの位置。