小説

『京都エキストラシネマ』白紙(『更級日記』(京都))

 教室でうなだれていると、できたばかりの友人が言った。
「いっそ自分で撮ってみたら? スマホで撮影も編集もできるよ。京都観光がてら、日記みたいに撮りためてみれば?」
 いやいやそんな。無理無理。
 そのときはそう言ったのだけれど、だんだんその気になってしまった。映えスポットにいけば、それっぽく撮れてしまうのでは? 緑豊かな右京区は、平安貴族の別荘地だった歴史もあり、名所は多い。
 でもさすがに家の近所で撮影するのは恥ずかしく、電車とバスをのりつぎ、映画やアニメで観たことがある、鴨川デルタへ行ってみた。
 大学おわりに勢いのまま来たので、すっかり日が沈んでいる。夜の鴨川は、黒い墨が流れているよう。日中には人気スポットだが、ひとけはない。
 スマホのカメラを構え、向こう岸へと通じる飛び石を飛び越えた。川のなかほどで立ち止まって、動画をチェックする。思い描いていた、ポンポンと軽い足取りの青春ムービーっぽい映像ではなく、おっかなびっくり「お」「うわ」と野太い声が入り込んだ、手振れ動画だった。
「……」
 最初からうまくできる人はいない。そう思おうとしたのだが、急に心細くなってきた。
 最初の失敗は、下調べもせずに髪を切ったこと。
 次の失敗は、大学生活とエキストラの両立の難しさを考えていなかったこと。
 そして最後の失敗は、ちょっとでも才能があるかもと思ってしまったことだ。
 石の上で座り込んでいると、「すみません」と背後から控えめな声がかかった。エコバッグを持ったお姉さんが後ろの飛び石にいた。慌てて立ち上がって向こう岸へと向かう。飛び石は一列に並んでいるため、渡り切るしかない。
 対岸につくと彼女は小さく会釈して立ち去ろうとしたが、すぐ戻ってきた。
「しんどない? 無理させたんやったらごめんね」
 落ち込んでいるときに優しく声をかけられると、泣きそうになる。才能ゼロの動画を見せると、彼女は「これは才能やなくて、技術の問題」と言い、手招きした。

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