小説

『僕らはみんな』笹木結城(カチカチ山)』

火の用心を呼びかける人たちは、総じてカチカチと音を立てて回っている。昔からの習慣で、拍手木を耳にすれば年末を実感するものだ。火が人の命を奪うなんて全人類が知っている常識で、火と共存しなければならないのもまた事実で。僕らの世界は危険なものと上手いこと付き合っていかないと成り立たないからこそ、退屈なだけではない毎日が過ごせるのだろう。危険を冒さなければ楽しみがないと言っても間違いではない。

「ええっと……?つまり、勇太朗は前世がわかるって?」

昼下がりのカフェテリアでポリポリと頭を掻きながら一生懸命に嚙み砕こうとしているこの男には、退屈な時間があまりなさそうだけれど。

「わかるって言うか、夢で見るってだけだよ」
「同じ夢ばっかり見るって気味悪いやん」
「……いい気分ではないね」
「成敗してる言うてもなあ……目覚めは悪いやろ……むしろ最悪」

自分が見たかのように顔をしかめているのも無理はない。僕がここ数日見続けているのは決まって同じ結末の夢。それも誰もが知っている有名な昔話の設定とうり二つで、最終的に目の前でひとりの人間が消えていくんだ。僕の手によって、顔も名前も知らない人間が消えていく。その人間が悪事を働いたということ、僕の意志とは関係なく仇を討ちに行くこと、そして無事に村に戻っても歓迎はされないこと。わかるのはこの3つだけだった。

「その設定ってあれやろ?カチカチ山やろ?」
「そうだね。僕も相手も人間だからものすごく生々しいけど……」
「勇太朗はウサギなんか。あっはっは」
「……笑うなよ」
「言われてみればウサギ顔やな。俺って何っぽい?」
「朔は誰が見てもゴリラだよ」
「なんだと!?」

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