小説

『一寸で生まれた男と、桃から生まれた男が相対したとして』瑠春(『桃太郎、一寸法師』(岡山))

「一寸法師と申すものだが、このあたりに桃太郎が住んでいると聞いたのだが」
 それなりに長い旅だった。
 山城(旧京都)から此処、備中(旧岡山)までの道のりを思い出し、流れてもいない汗を拭う。目的の人物が見つかればいい。だが、見つからなければどうするか。そう思った所で、奥から男が一人現れた。
 目についたのは、その上背。今となってはかなりの長身となった俺でも「大きい」そう感じる程の高さだ。だが、威圧感を感じないのは、彼のその人当たりのよさそうな笑みと、まぁなんだ、癪に障ることだが、彼が美丈夫というのもあるだろう。
「これは驚いた、一寸法師に会えるとは」
「俺を知っているのか?」
「あぁ、君は有名さ。そして挨拶が遅れてすまない、俺が桃太郎だ」
 なんと。
 思わず口にすれば、目の前の美丈夫こと桃太郎がニカリと笑った。
「すまない、本人だったとは!」
「かまわんさ」
「君の武勇は伝わっていたのだが、こんなにも美丈夫とは聞いていなくてなぁ」
「そんな嘘が広がっていなくて良かったよ」
 ハハっと笑った顔がこれまた美しく、俺は心の中で唸る。
 天よ、貴方は二物を与えないのではなかったのか。目の前で二物も三物も持っていそうな男がいるではないか。
「それで、一寸で生まれた男は、桃から生まれた男に一体何の用だ?」
 少し遊び心のある問いかけに、こいつは良い出会いになりそうだ、と思わせてくれる。
「君に聞きたいことがあってきたのだ」
「聞きたいこと、とな」
 この問いをどう切り出すか。道中ずっと考えていたというのに、いざ本人を前にすると中々どうして難しい。震える体を心中で叱責しながら、声を絞り出した。

「桃太郎、君は罪のない鬼を退治した悪人なのか?」

 俺の質問に、分かっていたと言わんばかりに彼は笑った。

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