氏神様は大きく目を見開いている。その眼差しは鋭く、僕の胸を射貫くようだった。
「私は忠兵衛殿に力を授けた。その身代を栄えさせるための力を。忠兵衛殿はそれを上手に使い、家を栄えさせた。今、貴方が、自分の力に振り回されつつも衣装中の不自由なく暮らしていけるのは、忠兵衛殿からの代々の繁栄があったからこそ――違いますか」
「それは――」
僕はごくりと生唾を飲み込み、沈黙した。確かにそれはそうだ。生まれてこの方、この力による不自由は感じたことがあっても、それ以外のことで全く困った経験はない。幼少の頃から僕は独りでいたことがなく、危ないことをしそうになったら必ず誰かが止めてくれていた。
そうでしょう――と、氏神様はむくれた顔。
「力を制することができぬなら、もっと強くなって抑え込めば良い。周りのものを破壊することを恐れるなら、そうならないように今よりも加減を覚えれば良い。それができないのは――ひとえに、貴方が未熟だからではないですか」
貴方が、弱いからではないですか――。氏神様は、僕にはっきりとそう言った。
「――」
僕は言い返せなかった。氏神様は幼子を叱る母親のように、
「力が制御できないのは、貴方の心が弱いからです。私が授けた力は呪いとは違う。力を授けたからこそ、力の持つ意味を誰よりも知っています。その力が貴方に受け継がれた意味も」
氏神様は立ち上がった。そうして話は済んだという顔で、今度は僕に笑んでみせた。
「貴方の力が示す道は、貴方の望みとは違うかもしれない。どちらを選ぶかは貴方が決めること。そして――どちらを選ぶにしても、今よりもっと強くあらねばなりませぬ。まことの強さを得た貴方がこの世をどう変えていくか……私はそれを、楽しみに見ています」
旋毛風が吹いた。思わず手で目を守る。気付いた時には、氏神様の姿はなかった。
ぽつねんと一人取り残さ、僕はぼうっと突っ立っていた。頭の中には氏神様の言葉が何度も何度も繰り返されている。牛が反芻するように、僕はその言葉を頭の中で噛み潰し、溜息を吐いた。
本当の強さ――それを得た僕が、世の中を変える――。
僕は空を見上げた。そしてすぐに、頭をガシガシ掻いて言った。
――いや、フィジカルな強さは関係ないよなァ……。