小説

『梅津忠兵衛の呪い』小柳優斗(『梅津忠兵衛の話』(出羽国平鹿郡横手町))


 城の模擬天守を眺めながら、だらだらとした階段を上ってゆく。城自体は既に廃城となっているが、その跡には郷土資料館や展望台を兼ねる模擬天守閣、広々とした公園などがあって、昼間は散歩する親子連れや老夫婦などで、そこそこ賑わう。
 階段の途中に、一人の女性が立っているのが見えた。十段ほど向こうにいる。年は僕より少し上で二十歳そこそこ。髪を上品に結わえた、ゾッとするほどの美人だが、道行く人は誰も見向きしない。体が触れ合うすれすれのところを通ったりして、その存在にまるで気を止めていないようだ。
 しかし僕には見える。一度でも神様と繋がりを持てば、何世代経とうとその縁は消えない。
 女性も、僕に気づいて微笑んだ。僕が軽く頭を下げると、その姿がふっと消える。立ち止まる僕の背中を風が吹いて、背中をちょんちょんと突かれた。振り返ると、さっきの女性だ。
「――久しいですね。忠兵衛殿のご子孫の方」
  梅津功夫と言います。僕はそう言って、頭を下げた。
「氏神様――」
 僕は呼びかけた。氏神様は、軽く首を傾げて、僕の言葉の続きを待っている。その仕草に、ちょっと心を高まらせながらも、僕は深々と息を吐いて言った。
「お願いがあって来ました。梅津家の呪いを、どうか解いてほしいのです」


 本丸跡には秋田神社がある。本丸表門の機材を利用して再建されたのだそうだ。氏神様は日ごろここで暮らしているから、周囲のどんなことにも詳しい。
 その氏神様に誘われて、僕は社の影に腰を下ろした。なるほど、ここなら人目につかない。「氏神様――ご存じの通り、僕は梅津忠兵衛の血を引く者です」
 僕は言った。氏神様は、相槌代わりに微かに頷く。
「忠兵衛はかつて、氏神様の手伝いをして、その褒美に強力を賜りました。その力は代々受け継がれ、梅津家はその強力を以て城に仕えて、出世の道を歩み、郷土史にも名を残しました」
 氏神様はまた頷いた。僕は大きく息を吸って、
「そこで氏神様にお願いがあります。どうか、この強力を僕らから失くしてほしいのです」
「――」

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