「そうですか?」
「うん。私、もうこのバイト始めて一年くらいたつけど全然覚えられんし」
「あーまあ、映画も漫画も好きでよく見るし、大体人気作はチェックするんで自然と頭に入ってるのかもしれないです。棚見るのも楽しいし」
「へー。んじゃさ、棚戻し作業は任せてもいいですか」
「え?」
「いやっすか」
「いやいや!」
それはむしろ願ってもいなかった。だけど、とも思う。
「高木さんはいいんですか」
「なにが?」
「レジの仕事いやじゃないですか」
「えー別に。あ、でも買取りとかはよく分からんからやだ。でも、ただのレジなら楽だし」
レジが楽、だと? 俺にとっては苦痛でしかないのに。
「俺、買い取りだったら早く覚えたいしやりたいです」
「まじ? じゃあそんときは呼ぶからよろしく! いやー助かるわー!」
高木さんが元気よく俺の背中を叩く。高めにくくった明るい茶髪がふわりと揺れた。
DVDや漫画本を棚に戻していると、以前にはなかったものが目に入った。
「あ、それ僕がつくったんですよー」
いつの間にか隣にいた店長がそう言った。
「どうですか、これ」
店長の目線の先にあるのは手書きのポップだ。店長なりのおすすめポイントとイラストが描いてある。
正直、下手だ。絶望的にセンスがない。
「あ、えっと、誠実さがでています」
俺のコメントも下手だった。
「うん、上手くはないよね。分かってた……」
高木さんに見せてあげたかった。店長のしょんぼり顔は、散歩に連れていってもらえなかったときの柴犬のようだ。
「山田さんはこの漫画読んだことありますか」
「ありますよ。面白かったです」
「あ、じゃあ感想とか教えて! いやー実は僕あんまり見ないんだよね。漫画もそうだし、映画とかも」
「え、じゃあなんでこの仕事やってるんですか」
「色々成り行きで」
「そうですか」
「山田さんこそ、うちのバイトでいいの? 結構いいとこ勤めてましたよね。あとで気づきましたけど」
たしかに面接のときは履歴書一切見てなかったからな、この人。
「店長こそ俺みたいのがバイトでいいんですか」
よどみなかった店長との会話が止まった。