小説

『むくいる』ウダ・タマキ(『鶴女房(岩手県)』)

 
 商業主義に偏ったようなセルフプロデュースが自らの首を絞める結果となった。さらにはSNSで発信される旧友たちの幸福な生活を知ることになり、精神的にも凹んでいる。
「はぁぁぁぁぁぁ」
 突如として強い虚無感が俺を襲った。日の目を見ようとがむしゃらな自分に嫌気がさす。今の俺は売れることだけしか考えていないじゃないか。ギターを始めた頃は、ただ歌うことが楽しかったのに、今は歌うことが売れるための手段、義務となっているだけのような気がする。
 二十八にもなって、何やってんだろ俺。いっそのこと、SNSも音楽も辞めてしまおう。俺はスマホを手に取った。が、それを思い留まらせる理由が一つ頭の中に浮かんだ。
 ただ一人だけ俺の動画にいつも「良い歌ですね」などと毎回欠かさずコメントを残してくれる人がいるのだ。akoさんという名の恐らく女性。
 俺は布団に寝転びながら、これまでのakoさんからのコメントに目を通していた。
 彼女のコメントは的確だ。歌に込めた俺の想いをよく理解してくれていて、高評価だけじゃない指摘も含め、嘘偽りなく感じたことをコメントしてくれる。


「もう少し、頑張ってみるか」


 俺は歌い続けた。SNSの発信も続けた。多くの人に見てもらうことを意識するのはやめ、肩の力を抜いてありのまま音楽を楽しんだ。動画は少し遅い青春時代の活動記録として残ればいい。
 SNSを始め、やがて一年が経った。それなりにアクセス数とコメントは増えた。俺の生活に変化も訪れようとしている。が、それはミュージシャンの活動ではなく、生活費を稼ぐためのアルバイトの方だった。三年前から介護施設でアルバイトを始めたのだが、一週間前に施設長から正社員雇用の打診があったのだ。
「入居者さんからも好かれてるし、良かったらウチで働いてくれないかな?」
「少し、考えさせて下さい」
 悪くないなと思った。仕事は楽しい。勉強して資格を取って、本格的にこの仕事を続けていくのも良いかもと考えていた頃だった。しかし、そうなると時間の融通が効かなくなる。いざとなると決断に踏み切れない俺がいた。


「とても良いですね。心に染みる歌詞と歌声に涙が出ました。ありがとうございます」

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