小説

『むくいる』ウダ・タマキ(『鶴女房(岩手県)』)

 そう言って差し出された手。俺達は握手を交わした。
 夢を諦めた俺に光が射した。メジャーデビューの声がかかり、初のリリース曲がドラマの主題歌に採用されたのだ。それも俳優akoの主演するドラマに。俺達は故郷の英雄となり、町のイベントに呼ばれることとなった。二人並んで歩いて眺める懐かしい景色。黄金色に輝く稲穂が重くなった頭を垂れている。
「変わらないね」
「そうだな」
 俺が差し出した手に、そっと触れたakoの手の温もりが伝わった。
 俺の夢に否定的だったお袋は「さすが、私の息子やね」と、招待したレストランで顔を赤くしてご陽気に言った。親父は「天狗にならず、人への感謝を忘れるなよ」と、相変わらず静かな口調。
 おかげさまで東京の生活にも漸く少し余裕が出てきた。それでも欠かすことなく故郷からは米と野菜が届き続けている。人は誰かの恩を受けて生きているんだな、なんてことに漸く気付く。これからは俺が皆に恩を返し、そして、誰かに恩を送っていこうじゃないか。

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