小説

『時には、必要、かもしれない』真銅ひろし(『鉢かづき姫(寝屋川市)』)

 あっけなく撃沈した。
「ごめん。」
 で終わってしまった。
 一年もドキドキして、悩んで、そしてあんなにも邪魔物を押し退けたのに。
 あっけなく終わってしまった。
 とぼとぼと下校する。
 体育館から聞こえてくるたくさんの部活の足音、校舎から聞こえてくる吹奏楽の音、校庭から聞こえる野球部の掛け声。
 いつも聞き慣れている音が、なんだかより一層自分の惨めさを引き立たせた。
 ヤバい、泣きそうだ。
 フラれるとはこういう事なのか・・・。
 どうしようか、真紀に連絡しようか。
 いや、こんなフラれたばかりの泣き言を聞かされても迷惑だろう。
「夢華!」
 こちらを呼ぶ声にハッと前を向く。校門の所でブンブンこちらに手を振っている。
 兄だ。
「おかえり!」
 いつもと変わらない表情をしている。
「・・・。」
「今日もお疲れ様!」
 満面の笑み。
「帰ろう!」
 過保護にもほどがある。
「・・・。」
 いい加減止めて欲しい。
「・・・。」
 でも、今は、少しホッとする。
 帰ったら父にすき焼きを作って貰おう。

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