「嘘つけ。だったらなんで2人に勝てるんだよ。」
「稽古してるの覗いてた。」
「じゃあ、見よう見まねでやってるのか?」
「そうだ。」
「・・・。」
あり得ない。そんなこと出来るわけがない。
「よし!じゃあやろう!」
桃太郎が構える。
「・・・。」
呼吸が速くなる。
俺だって村で一番強いし、一番稽古してる。こんな奴に負けるわけにはいかない。
「よし!かかってこい!」
押し潰されそうな気持ちを言葉で掻き消し、桃太郎と対峙した。
―――――そして現在。
相変わらず桃太郎は強い。その強さはすぐに村中に広がり有名になり誰も桃太郎を越えるやつなんて出てこなかった。
「なぁ、柿次郎、ちょっといいか。」
ある日の夜、深刻な顔をしてうちに来た桃太郎は俺を外に呼びだした。
「なんだよ。珍しいな、こんな夜遅くに。」
「あのさ、僕、行こうと思うんだ。」
「どこに?」
「鬼退治。」
「は?鬼退治?」
「そう。」
いきなりの言葉。
「お前本気で言ってんの?」
「うん。」
「ちょっと待て。鬼だぞ。分かってんのか?」
「うん。」
「分かってねえよ。ちぃせえ村だけど昔この村を一度壊滅させてんだぞ?」
「だからやる。うちのじいちゃんもばあちゃんも鬼に子供を殺されたんだ。俺は会ったことはないけど、自分の子供が死んじゃうのは辛いし悲しいと思う。柿次郎の家だって、他の家のみんなだってそれぞれ辛い目に合ってるんだ。」
「・・・。」
「そのためにここまで剣の修行をしてきた。それにいつまた鬼が現れてこの村を攻め込むか分からない。明日かもしれないし明後日かもしれないし、来月かもしれない。だったらこっちから攻め込んで退治したほうがいい。」
「・・・それで俺にも付き合えって?」
「ううん。柿次郎には僕がこの村を離れている間みんなを守っていて欲しいんだ。」
「なんだそれ。足手まといとでも言いたいのか?」
「そうじゃなくて、たぶんこの村で強いのは僕と柿次郎くらいだと思う。だから二人がこの村を離れるわけにはいかない。」
「・・・。」