小説

『俺だって、強い。』真銅ひろし(『桃太郎(岡山)』)

「でもやってみたい。うちは貧乏だから木刀を買う余裕も、道場に通うお金もないんだ。僕はそこら辺の棒っきれを使うから、勝負して勝ったら剣を教えてくれ。」
 桃太郎の強気な態度に少したじろいだが、剣術を習った事のないやつなんかに負けるわけがない。
「分かったよ。やってやるよ。」
 そこにいた俺たち三人が順番に相手にする事になった。強さ順に戦う事にして一番最後が俺。けれどその前の二人も道場で鍛練しているんだ、負けるわけがない。
「体のどこでもいいから当てた方が勝ちだ。怪我しても文句言うなよ!」
「分かった!宜しく頼む!」
桃太郎はにこやかな顔で返事をして構える。その姿は全く形が出来ていないへなちょこの構えだった。
「始め!」
こちらの掛け声と共に仲間が桃太郎に踏み込み木刀を振り下ろす。完全に頭を捕らえている。決まりだ。
「・・・。」
 けれど、そう思った瞬間桃太郎は体を反らせ攻撃をかわした。そして間髪入れずに相手に踏み込み胴に一撃を加えた。
「あっ・・・つ!」
 仲間はその場に倒れ、苦しそうに悶えている。
「これは僕の勝ちで良いんだよね?」
唖然とするこちらに嬉しそうな顔つきで聞いてくる。
「ああ、そう、だな。」
「やったー。勝てた勝てた!さぁ、すぐ次をやろう!」
 無邪気に言ってくる。そのはしゃいでいる姿を見て心臓の動きが速くなるのを感じた。
「調子にのってんじゃねぇぞ。」
 こちらの焦りを悟られないようにすぐに次の試合を始める。
「・・・。」
 2番目の仲間もあっけなくやられてしまった。こちらが攻撃する前に頭を打たれた。
「速すぎるだろ・・・。」
 ほとんど見えなかった。息つく間もなく打ち込まれた。
「よし!じゃあ、最後だ!」
「・・・。」
 負ける。そう直感した。
 なんでこんな奴がいるんだ。道場にも通ってないのに。
 誰かこの村で桃太郎に剣を教えた奴がいるのか?
 いや、そんな奴がいたらわざわざこんなところに来るわけない。
「おい、お前剣はどこで覚えた?」
「覚えてない。」

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