小説

『俺だって、強い。』真銅ひろし(『桃太郎(岡山)』)

 こんな馬鹿な事があってたまるか。第一に桃から人間が出て来る事自体おかしいんだ。
「・・・。」
 けれど、今さらそんな事を思った所で現実は変わらない。
「柿次郎、もう一本やろう!」
 桃太郎はまだまだ元気一杯といった感じで木刀を構えている。
「ちょっと待て。少し休ませろ。」
 俺は腰を地面に着いた状態で訴える。
 もうかれこれ30本くらい立ち会っている。こちらは息があがり、立ち上がる事すら難しい。
「なんなんだお前の体力は。化け物か。」
「桃から出て来てるから、似たようなもんかな。」
「笑えねぇ。」
「お前と戦うのは面白いんだ。強いしな。」
「嫌味か。」
 全く面白くない。いくら必死に剣の鍛錬を積んだ所で桃太郎には全然かなわないのだから。
「じゃあ、少し休んで最後にもう一本やって終わろう。」
「・・・。」
 なんでこんな奴が現れてしまったのだろうか。

 今年で20才。3年前までは俺がこの村で一番剣が強い男だった。若くして剣の才能に恵まれ、これなら例え鬼が来たって勝てると思っていた。
 しかしだ。
 3年前に一人の男が現れた。年齢は同じくらい。
 それが桃太郎だ。
 村の外れにある家で、桃から人間が出て来たというのは知っていた。最初はみんな興味津々で見に行ったが、次第にみんな何も言わなくなった。見た目も普通だし、頭も普通だし、俺たち人間と何も変わらなかったからだ。
 しかし、その日は突然訪れた。
「俺もその木刀を使ってみたい。教えて欲しい。」
 そう言って剣の鍛錬をしている俺達の所にやって来た。
「何言ってんだ、いきなり扱えるわけないだろ。危ないから帰れよ。」
 俺達はバカにするように笑った。

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