少年たちは不貞腐れていて返事をしない。オヤジがますます熱くなる。
「お前ら、どこの小学生だ! 通報してやる!」
面倒なことになった。俺もかつてはクソガキだったため他人事とは思えない。
よくよく商品棚を確認してみると、どうやら濡れたのはプリンのようだ。そこで、俺はオヤジに提案を持ちかけることにした。
「濡れた商品は俺が全部買い取りますよ。だから今回は許してやってよ」
オヤジは渋い顔をしながらも首を縦に振った。
少年たちが解放される。その様子を認めてからプリンの袋詰めを始める。オヤジの好意でプリンは大幅に値引きして貰えた。
帰り道、また少年三人組と遭遇した。彼らは、俺の姿を見るなり駆け寄ってきて、大袈裟に頭を下げたのだった。
「ありがとうございました。さすがはお兄様!」
先日はオッサン呼ばわりしていたくせに、現金な奴らだ。
「お世辞はいらないよ。もう暗いから早く帰りな」
虫を払うように手を振ると、少年たちは再び頭を下げ、そして走り去った。
翌日、いつも通り、昼前にチャイムが鳴った。
嫌々ながらも扉を開ける。すると、
「昨日助けていただいた、子供です」
そこには、少年三人組が立っていた。
「クソガキまで来ちゃった!」
「クソガキじゃないです。ノッポと、ゴリと、ハカセです」
「そんなあだ名ならクソガキでも良いだろ。で、なんで俺の家を知ってんの?」
「昨日、尾行したんです」
「絶妙に気持ち悪いな。どうしてそんなことすんだよ」
「恩返しのためです」
デジャブだ。経験上、これは即座に断らなければならない。
だが、その前に一点だけ気になることがあった。
「ところでさ、なんで今日もジョウロを持ってんの?」
「これは僕たちの誇りです」
「いや、他の誇りを持ったほうが良いぞ」
聞いて損をした。さて、恩返しを断ろう。
そう思った時、こちらに向かって行進する黒い女性たちの姿が見えた。蟻のご出勤だ。ところが彼女たちは途中で足を止め、怯える表情を浮かべた。
もしや、と一つの考えが閃く。
「ノッポゴリハカセ、君たちの出番だ」
「ヘヘイ、なんでやしょう」
彼らは鼻の下を擦った。いつの時代のガキだよ、と思いつつも用件を伝える。
「いま水を持ってくるから、ジョウロであそこのお姉ちゃんたちに浴びせろ」
「水なら常に充填済みですよ」
「お、おう、そうか、頼もしいな。じゃあ頼んだぞ!」
少年三人組が走りだす。思った通り、蟻たちは少年たちとジョウロを恐れているようで、顔を引きつらせて逃げ惑い始めた。