小説

『注文の多いお弁当』木口夕暮(『注文の多い料理店』)

 「そうしようかしら・・」
 「明日にでも連絡して、迎えに来てもらえ」
 妻に助言し、文句も言わずに総菜を食べる。良い旦那じゃないか、俺。

 「悪いダンナさんね」
 ちょん、と彼女が俺の鼻をつつく。
 「こら、何するんだよ」
 彼女の体をまさぐる。仕事帰り、ホテルのベッドの中だ。
 「ねぇ、今日はゆっくりだけど、いいの?」
 「ああ。女房は実家に行ったから」
 家の事を気に掛ける妻を、俺は笑顔で見送った。義父はわざわざ電話してきて、君には迷惑を掛けて済まないと言ってくれた。
 「いやあ、側で具合悪そうに寝ていられるよりもいいですよ。食べ物は買えば済むし、クリーニング屋も近所ですし、不自由はありません。こちらこそよろしくお願いします」
とか言って電話を切ったのが昨日のことだ。
 「赤ちゃんかあ」
 ドキッとした。実は以前、彼女には中絶させたことがある。
 「産んでからも、しばらく奥さんは実家?」
 彼女は無邪気に俺の腕に縋ってくる。
 「そう、だね。だからしばらくはゆっくり会えるよ」
 「うん」
 良かった。昔の事を蒸し返すつもりは無さそうだ。
 俺は彼女の体を堪能し、その日はぐっすりと眠った。

 相変わらず例の夢は続いた。午前二時に食材の夢を見る。昼にはその料理を食べる。豆を見たら豆ご飯、という風に。夢を見ない日もあるが、見た日の的中率は百発百中だ。俺は元々、超常現象を全否定する程頭の固い人間じゃない。献立を想像して楽しむ位の余裕も出てきた。
 (A5ランクの肉牛でも出ないもんかな)
 書斎にどーん、と牛一頭。面白いじゃないか。

 
「えっ、居なくなった?」

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