小早川さんはそう言ってさっさと自分の作業に戻っていった。
「大丈夫、真理はああ見えてやさしいから」
部長が笑顔のままそう言うと、またしても他の部員も頷いていた。
「やめてくださいよそういうの」
振り返った小早川さんは照れているように見えた。
部活の時間が終わり後片づけをしていると、帰り支度をした小早川さんが前を通るついでのように声をかけてきた。
「それさ、やりたくてやってるの?」
ドキリとする。
「えと、それは」
「あ、ごめん。無理して答えなくていいよ」
小早川さんはすぐに離れていった。自分はそんなに困った表情をしていたのだろうか。
「あの衣装なんだけどさ、これもつけたらかわいくない?」
翌日。友人の亜季が持ってきたのは飾りボタンとレースだった。
「わ! かわいい!」
追い打ちをかけるように瑠花が声をあげる。だけどこれ以上負担を増やしてほしくなかった。
「ごめん、ちょっと無理かも」
勇気を出して言ってみる。亜季は一拍おいてから「じゃあ仕方ないね」と言って引っ込めたが、小さくため息をついたのが耳に届いた。
「これ三人でおそろいにしたら絶対かわいいよ」
瑠花が亜季からそのボタンとレースを受け取って、つきつけるようにして見せてきた。
「せっかく亜季が買ってきてくれたんだからさ」
嫌な空気が身体にまとわりつき、たまらなくなってボタンとレースを受け取る。
「分かった。つけるよ」
「え、本当?」
「やった! ありがとう!」
張りつめた空気が和らぐ。だけど身体にまとわりついていたものは、そのまま心へと移動しただけのような気がしていた。
文化祭まで残り一週間。手芸部の人達はもう自分の展示品はあらかた仕上げにはいっているようだ。そろそろつけなければ、とボタンとレースを机の上に置く。
「あれ、なにそれ。つけるの?」