私は雑誌を見せて彼女に声をかけた。彼女はちょっと驚いた様子を見せた後で、こくりと大きくうなずいた。彼女に雑誌を渡すと、彼女は笑顔で受け取り、うれしそうに頭を下げた。
それから彼女は、脇目も振らずに食い入るように雑誌を読んでいた。さっきまで寝ていたり、車内をキョロキョロしていたときとは全くの別人のようだった。
読みながら、ときにはうなずき、ときには「うわあ」と歓声を上げて、とにかく真剣に、そして楽しそうに雑誌……というか、アイドル特集のページを何度も何度も繰り返し読んでいた。
彼女のあまりにも熱心な様子に私は、
「ひょっとしてアイドルになりたいのかい?」
と冗談まじりに訊いてみた。私の言葉にハッとして雑誌から目を離してこっちを見た彼女は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたまま大きくうなずいた。
その後も彼女は雑誌を読み続けていたが、さすがに疲れたのか、いつの間にか寝息を立てて眠っている。
私はチラッと彼女を見る。
「アイドルか……」
こうして見ると、確かにかわいい顔をしている。橙色の髪もきれいだ。
「でも、このちょっととろいというか、こんなぼーっとした感じでアイドルになんてなれるのかなあ」
私は彼女の寝顔を見ながらそんなことを考えていた。
そのとき、車内から次に停まる駅のアナウンスが流れた。それを聞いて、私はハッとする。
さっき彼女が座席を間違えたとき彼女の切符を見たが、確か降りる駅は……
私は慌てて彼女を起こした。彼女は寝ぼけた表情のままムニャムニャとつぶやいている。
私は声を大きくして「間もなく降りる駅に着くぞ」と言った。その言葉に彼女はようやく目を覚まし、慌てて棚から荷物を降ろそうとするが、あせっているためうまく下ろせない。
なぜか自分のことのように心配になってきた私は、彼女の代わりに荷物を降ろしてやった。全く、こんな子が本当にアイドルになんてなれるのだろうか。
そうこうしているうちに駅が近づいてきた。彼女が急いで出口に向かう。
なんとか間に合ったので私はひと息ついた。
と思ったら、突然、彼女が引き返してきた。
「忘れ物か?」と思って周りを見たが、座席や棚には何も残っていない。
「おい、もうすぐ駅に着くぞ」
私は慌てて声をかけた。
すると、彼女は私の前で突然荷物を開け、何かを探し始めた。
「だから、もう駅に着くぞ」