小説

『吾輩たちは猫である』洗い熊Q(『吾輩は猫である』)

 流石に一人では正確には出せなかったが、おおよそ三万匹以上の猫が市内に落ちてきたのが分かった。
 男性はその三万という数字に心当たりがあった。

 
 次の日から男性は彼方此方へと電話を掛け始めた。それは各市町村にある保健所だった。
 近隣問わず全国にだ。
 大抵に掛けて事情を言うと門前払いを食らった。まあ、そうだろうと男性も覚悟はしていたが。
 だが自分がA市に住んでいる事、猫達を観察した経緯を訊かせると何人かの担当者がオフレコで話してくれた。

「……処分待ちだった猫達が消えました。ある日突然です。脱走させた痕跡もありませんでした。うちだけ? いいえ、噂では全国の保健所でも同じらしいです」

 声を漏らすほど男性は納得だった。
 三万匹は年間の処分された数に等しい。これは猫だけの数字だ。一昔前は桁が一つ違う位の処分数だったが。
 担当者に外部に漏らさないでと念を押され、これだけの騒ぎで保健所が先導旗って動いていないのはそれが理由かとも納得していた。

 
 一週間もしたら、A市にあれだけいた猫達の姿はなくなっていた。まあ以前に比べれば見掛ける数は増えたように思えるが。
 猫は縄張り意識が強く、育った地を離れがたい。いずれは姿を消すとは思ったが、こうあっさりと居なくなると驚きを隠し得ない。
 辿り着くには遠すぎる故郷に向かったか、または保健所に確保されてたしまったか。
 追跡調査で何匹かはA市の住民に飼われていると分かった。元来、里親捜しの対象だった動物。その事実に男性は微笑まずにいられなかった。

 調査して男性が辿り着いた結論。
 結局は何も分からずじまいだ。
 降ってきた猫達全てが保健所に保護されていたものだと証明も出来ない。
 ただ猫達には一つの生きてきた証があり、そして処分待ちの猫が居なくなったのは真実だ。

 ――では何故A市に降ったのか?

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