小説

『吾輩たちは猫である』洗い熊Q(『吾輩は猫である』)

 その日A市の全てが停止した。
 道路、鉄道。交通インフラは全て全滅だ。沢山の降臨した猫達が、鉄道など一部の線路が見えなくなるほど敷き詰めてしまった。
 道路は無論大渋滞。走っている車は停まるしかない。その停まった車にも猫が降りてくる。道路にだってあっと言う間に猫が溢れる。
 通行止めだけでなく、降りて来た猫が信号に掴まってしまって目隠し。もうそうなると混乱は収まらない。
 猫を轢いてしまっても進もうなんて思う非情な人でさえ、その数に圧倒されて唖然とするしかない。
 停まってしまった電車も動けずの非常事態に、乗っていた乗客達を下ろそうとするが線路に溢れる猫達に圧倒され避難に四苦八苦だ。
 だが猫達は襲うどころか何かする訳でもない。せいぜい怯んで見つめる人間達を欠伸で出迎えるだけなのだ。

 不思議なのは、降りて来た猫達が車や電車に轢かれる事故はなかった。
 いやそれより不可解なのは落下によって死んだ猫など一匹もいなかった事実。
 ほぼ日中一杯、猫が雨のように降り注いだにも関わらず、猫の遺体は一匹たりも存在しなかった。
 だが人々の本当の混乱は次の日から始まるのだ。

 
 猫が降り注いだ次の日も快晴だった。予報ではこの週末まで雨の予報はない。
 朝の暖かい日射しの中、穏やかな雰囲気の景色は猫だらけだ。
 地べたに座り込むのはプライドが許さないのか猫は門柱や塀の上、屋根や車の上を占拠していた。
 斜光にどんな柄の猫も輝いて見え、薄らと埃が周囲を舞う。
「……ハックション! ハックション!!」
 一人の若い女性が自宅から出た途端にくしゃみが止まらなくなった。
 彼女は猫アレルギーなのだ。マスクなど完全武装で出てみたが数が数である。
 周囲を見合わせば猫だらけ。その光景が精神的に彼女の鼻をむず痒くさせるのも一因だろう。
「おい大丈夫か……ブワックション! ブワックション!!」
 女性を気遣った男性もくしゃみが止まらない。
 彼は猫は無いがスギのアレルギーはある。この時期の猫達は身体の毛にタップリと花粉を付けて来てくれた。
 陽光に帯に映り輝いて舞う埃に猫の毛。情緒があって美しくも見えるが二人にとっては地獄絵図だ。

 出勤間際の一人の男性も参ったと頭を掻いていた。

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