小説

『負け惜しみはもう言わない』渡辺鷹志(『きつねとぶどう』)

 女の子は負け惜しみを言って、その場を立ち去ろうとした。
 そのとき……

「本当は仲間に入りたいんだろう?」

 女の子の耳に一人の男性の声が聞こえてきた。
「誰?」
 女の子は辺りを見回したが、近くには誰もいなかった。

「本当はあの子たちがうらやましいんだろ?」
 再び男性の声が聞こえる。
「誰なのいったい! 私はちっともうらやましくなんてないわよ」
「素直になるんだ。ほんのちょっと勇気を出してみんなのところに行って、私も仲間に入れてと言うんだ」

「あっ!」
 そのとき、女の子は誰かに背中を押された気がした。
 そして、そのままの勢いで、遊んでいる子どもたちのそばまで来てしまった。
 その瞬間、男性の言葉を思い出した女の子は、勇気を出して自分も仲間に入れてほしいと声をかけた。
 女の子は仲間に入れてもらい、他の子どもたちと楽しく遊ぶことができた。そして、みんなと友だちになれた。

 高校生の男の子がうなだれていた。
 彼は大学受験で志望校に落ちてしまったのだ。
 そんなとき、同級生からメールが来た。内容は「卒業前に、最後にみんなで遊びに行かないか?」という誘いだった。
 この地方では高校卒業後に地元に残る人は少なく、卒業後はみんながバラバラになる。遠く離れた場所に進学、就職する者も多く、次はいつみんなが集まれるかわからない。
 男の子は誘われたのはうれしかったし、卒業前に最後にみんなと会いたいと思った。しかし、自分が受験に失敗したカッコ悪さから返事をするのをためらっていた。
「もうすぐ卒業なのに何がみんなで遊びに行くだ。ガキじゃあるまいし。俺はガキの遊びに付き合ってるほど暇じゃないんだよ」
 男の子は誘いのメールを無視しようとした。
 そのとき、どこからか一人の男性の声が聞こえてきた。

「本当はみんなと遊びに行きたいんだろ?」

 声を聞いた男の子はびっくりしてきょろきょろしたが、まわりには誰もいない。

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