小説

『負け惜しみはもう言わない』渡辺鷹志(『きつねとぶどう』)

 男は高齢者になっていた。
 近所の人から、町内会の趣味のサークルや旅行に参加して楽しい毎日を送っているという話を聞いた。
 友人もなくいつも一人で過ごしていた男は、近所の人の話がうらやましかったが、「自分もいっしょに参加したい。今度自分も行っていいか」と言い出すことはできなかった。
「いい年して趣味だ旅行だとはしゃいでみっともない。あんな奴らとは関わりたくないね」
 男の負け惜しみは、高齢者になってからも相変わらず続いていた。

 まさに死の直前、男は負け惜しみばかりを言っていた自分の人生を後悔した。

「本当は同級生といっしょに合格祝いに行きたかった」
「本当はどこかの会社から内定をもらって毎日働きたかった」
「本当は同級生のように自分も素敵な女性と結婚したかった」
「本当は町内会の旅行にいっしょに行きたかった」

「本当はまわりの人たちがうらやましかった。みんなの輪に入りたかった。でも、それができなかった。あのとき変な意地を張らずにみんなの輪に入ればよかった……」
 男の目からは涙があふれてきた。
 そして、男はそのまま目をつむった。

 その瞬間、男は天からの声を聞いた。

「そんなに自分の人生を後悔しているなら、これからはお前のような人生を送ってしまいそうな人を手助けしてあげるんじゃ」
 男はそのまま息を引き取った……

 小学生の女の子が空き地の隅のほうに立っている。
 女の子は空き地で楽しそうに遊んでいる同じくらいの年の子どもたちをじっと見ている。
 女の子は都会から田舎のこの土地に引っ越して来たばかりだった。そのため、まだ友だちが誰もいない。うらやましそうに他の子どもたちを眺めている。
 本当は自分も仲間に入りたかったが、恥ずかしくて自分から声をかけることができないでいる。
「私はこんな田舎であんな風に泥だらけになって遊びたくなんてないわ。都会にいたときのようにゲームをしたり映画を観に行ったりしたいのよ」

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