小説

『間抜けなのはだれ?』小山ラム子(『裸の王様』)

「ああ。こんな村になんの用なんだろうな」
「それが噂で聞いたんだけどな。あの石がとれる山を開発するらしいぞ」
「開発? どういうことだ」
「今まで手作業でやってただろ? 今王都では手作業なんかでやるのはバカがすることなんだってさ。機械でガーっとやっちまうらしいぞ」
「あんなかたい土を掘れる機械があるのか?」
「ああ。なんたって王都だからな」
「それはすげーな!」
「それじゃあ石がたくさんとれるな!」
「すごい金になるぞ!」
「待てよ。でもそんな機械を買う金がそもそもないだろ」
「その交渉を今しているらしいぞ。任せてくれるんだったら全部こっちでやるって」
「なんだと? そしたら石全部とられちまうぞ!」
「いやいや。そこはちゃんと分け前決めるだろ」
「なるほどな。そしたら今年の金はすごいことになるな」
「それこそ王都で豪遊できるな!」
「王都万歳!」
「すげーぞ村長!」
 周りの人達もその話の内容に興味をもったのか、次々とおじさん達の輪に加わる。たちまちの内にみんなが「贅沢三昧だ!」「王都に行ける!」「村長ありがとう!」なんて言葉を口にしはじめる。その騒ぎを横目に私はいつもより早く昼食を食べ終えた。
 私が立っているのは村長の自宅の前だ。ドアを叩こうとして何を言いたいのかが自分の中でまとまっていないことに気づきそのまま手を下げる。一度深呼吸をした後に、迷った挙げ句窓をソッと覗いてみる。家の中にはとても立派な身なりをした男の人がいた。あの人が王都から来たという人だろう。家には村長の他に、村長の秘書やお手伝いさん達もいる。王都から来た人が話をしているようなので、気付かれないように窓を少し開けてみる。とぎれとぎれに話は聞こえたが内容は分からなかった。聞こえない、というよりも意味が分からないのだ。「王都で流行っているのは」というフレーズがやけに使われているその演説を聞きながら、村長達はしきりに首を縦に振っていた。
 それからしばらくたったある日、村長が緊急集会を開くことになった。村の広場にみんなが集まる。村長は手に大きめの紙を持っていた。
「これから話すのは、王都の使者からの提案だ」
 周囲がざわつく。「予期してなかった」というよりは「ついにきたぞ」という興奮した雰囲気。噂はすでに村中に広がっていた。あの山が王都の人達の手で開発されるそうだ、石がたくさんとれてかなりの金になるそうだぞ、と。

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