小説

『間抜けなのはだれ?』小山ラム子(『裸の王様』)

「お父さん、お疲れ様。お弁当持ってきたよ」
「おお、マミ! ありがとうな」
 汗をふきながら私の方に歩いてきたお父さん。その手に持っているのは鉄のシャベルだ。
「わあ。大分掘れたね」
「そうだな。このくらいなら、一週間以内には石が出てくるかもしれない」
「おお! そしたらまた色々なものが買えるね!」
「ああ。今度は何にしようか。きれいな布や糸なんかどうだ?」
「すてき!」
 お父さんがシャベルで掘っているのは、とてもきれいな石がとれる山だ。この石は町に行くと高値で買い取られる。しかしこの山の土はとてもかたい。掘り進めるのには相当な力がいる。だから力のある男性が交代でこの山の発掘作業を行っている。そしてとれた石をお金にして、村のみんなで平等に分けるのだ。このお金をもって町で買い物を楽しむことが村のみんなの一大イベントなのである。
「今日ね、村長のところにとても身なりの立派な人が来たんだそうよ」
 夕食の時間、お母さんがシチューを飲みながらそんなことを言った。
「へえ。どこの人だろうな」
 お父さんもそう言いながらシチューを飲む。今日はじゃがいもと玉ねぎと鶏肉のクリームシチューだ。相変わらずお母さんの料理はとてもおいしい。
「王都の人みたいよ」
「王都の人? そりゃずいぶん立派な人だな。なんでうちの村なんかに来たんだろうな」
 私は王都に行ったことがない。村の人達のほとんど誰も行ったことがないだろうけれど。ここの一番近くの町でさえすごく都会に思えるから、王都なんてそりゃもうとんでもなく都会なのだろう。でもそれをうちの村と比べる必要はないように思えた。
「お父さん。うちの村なんか、とか言わないでよ」
「あ、すまん。マミはこの村が大好きだもんな」
 お父さんが慌てたように言う。次にお母さんが「でも王都に行ってみたくない?」なんて聞いてきた。
「お母さんは行きたいの?」
「行きたいわよ。豪華な催し物なんかが毎晩あるんだって」
「まあ私だって一度くらいだったら行きたいけど」
 一度くらいだったら、を強調しすぎていることにお母さんの顔を見てから気がついた。
「王都には素晴らしいご馳走だってあるのよ」

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