「お母さんの料理が私にとってはご馳走だよ」
険しい表情をしていたお母さんだったけど、即座に返した私の言葉にあっさりと笑顔で「あら、ありがとう」と言い、話題は町の買い物の話へとうつっていった。
「ねえマミ! 村長の家の方行ってみようよ!」
次の日の朝。近所で同い年のミーナが開口一番そんなことを言ってきた。
「村長の家? なんで?」
「だって王都の人が来てるんだよ! どんな人か見てみたいじゃん!」
その人は村長の家に泊まっているのか。何を話しているんだろう。そもそも私は村長が嫌いだ。村長のくせに『こんなくそ田舎』なんてことを平気で口にするからだ。この村の村長は世襲制なのだ。だから村に愛がない人でも村長になれる。そんなにいやなら町の住民になればいいのにと思うがもちろん口にはださない。そのつもりがあるならとっくに行っているだろう。
「ミーナも王都に興味あるの?」
「あるある! 一度は見てみたいじゃん!」
「王都で何したいの?」
「え? それは……美味しいもの食べたり豪華な服着てみたり色々なショーを見てみたり……」
「それなら町でもできるじゃん」
「規模がちがうんだって!」
「豪華な服じゃなくてもミーナはその服似合ってるよ。それ新しいよね。かわいい」
「え、そ、そうかな」
ミーナが自分の服をつまむ。そして照れたように笑った。
「これ自分で作ったの」
「へえ、すごい!」
「本当? ありがとう」
「お父さんがさ、あと一週間くらいで石がとれそうだって言ってたの」
「え! そうなんだ! じゃあもうすぐお金が入るね!」
「家はきれいな布や糸にしようかなんて言ってるんだけどミーナの家もそうなったら一緒にお店見ようよ」
「わー! いいね! そしたらどんな服にするか考えなきゃ! 今日は家でデザインしてる!」
村長の家に行く、というのはもう頭から吹っ飛んでしまったのか、ミーナはそのまま踵を返して家に帰っていった。その様子に満足感を覚えながら、村長の家に来ているという王都の人のことを考えた。一体何を話しているんだろう。
お昼に入ったレストランは休日だからかお酒を飲んでいる人も多い。店の真ん中で大声でしゃべっているおじさん達のテーブルの上には空になった瓶がいくつも置いてある。その話の内容はいやでも耳に入ってきた。
「村長のところに王都の方が来ているんだってな!」