小説

『どこからが未来でとわこで俺たちで』もりまりこ(『一寸法師』)

 じゃんけんに負けたから。つまり罰ゲームだった。罰ってなんの罰なんだか。その時、しゅーってタイヤの音がした。よく見ると、あの男の人、継父だった。
 車を降りて大きな横開きの扉をスライドさせて、顔がみえないぐらいの荷物を腰に引っ掛けて、誰かの家のチャイムを鳴らしていた。
「坂上さん。宅急便のお届けにまいりました」
坂上さんの家からおばさんが出てくる。
「こんにちは。アポストロフィーエス宅急便です!」
 俺のあたらしい父親は、今までみたことのない笑顔で、「重たいですから。ここでよろしいですか? いつもありがとうございますっ」と見慣れぬ笑顔で応えていた。俺の前ではみせない笑顔で。
 一寸から受け取っていたマラカスみたいな打ち出の小槌を、俺はそっと何回か振ってみた。
あの継父のアングル向けて、電柱の陰から。そしたら、あの継父が瞬く間に小さくなった。俺と同じぐらいに。
 え? って思っていたら、その継父はつつつと俺の方に近寄ってくる。
「やぁ」って、俺を見てる。
「きみ、転校生? ぼくもなんだよね。なんか、この間母親がな、新しい父親と結婚してね、大好きだった難波から引っ越してきたの。ね、ぼくの言葉ってへん? 大阪弁出ちゃってる?」
 俺に訊ねてきてる。若干関西のニュアンスを漂わせた口調。あの継父が、ちっちゃくなっていた、とても心細そうに。
「変じゃないよ、ちっとも。大阪の人なんだ。ぼくは、ずっとこっちなんだけど」
「ぼく、ちょっと喋りすぎ? よく言われる。ずかずかせんよって。母親も父親も。そういうのこっちの人に嫌われるんだって」
 新しい街に馴染もうとしているちいさい継父に俺は聞いてみた。
「その新しいお父さん。君は好き? いい人っぽい?」
 ちっちゃい継父は、少し考えているのか宙を見た。それ、今もしてる。母親に昼ご飯ラーメンとチャーハンどっちがいいの? ってメニューを聞かれた時など、即答できずに、そうやって宙を仰いでた。
「この間言われた。君の父親にはなれないって。だからお父さんって呼ばなくていいって。気を遣うこどもは好きやないんやって。ぴしって言われた。そんなことより、それなぁに? 君のもってるマラカスみたいなやつ」
 その台詞ってまんまじゃんって俺はつっこみそうになって。あの言葉は、継父の継父の受け売りなのか? って思って腑に落ちている場合ではなかった。
 小槌のことに気づかれた俺は、あわててちっちゃな継父ににそれを振られたらどうなるのかと思い必死で逃げた。逃げながら彼は決してわるいひとではなかったことに肩透かしを食らった気分だった。

 はじまりの浜辺に戻って来た。気が付くと一寸がそこにいた。

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