「さあ、真理ちゃん、残さず食べないとだめよ。」
「いや!食べない!」真理は激しく首を振った。おばあさんはやれやれとため息をつく。真理は毎回、出した食事を残そうとする。そして毎回、おばあさんはお馴染みの手段に出てしまう。
「真理ちゃん、これを食べ終わったらお菓子を食べていいからね。がんばって食べなさいね。」
「やった!まりちゃん、チョコのやつ食べる!」お菓子の話を持ち出すと、真理は上機嫌になるのだ。お菓子ならたくさんあった。チョコレート、バウムクーヘン、砂糖がけのナッツにマシュマロ、ビスケット。おばあさんとしては、子供たちに食事を残らず食べてもらわなければならなかった。二人ともほっそりとしている。もっと太った方がいいのだ。よくないこととは思いつつも、食事を食べさせるためならお菓子で釣るのも致し方ない。
真理の向かいの席では、洋治が黙々とサラダと格闘していた。もぐもぐと咀嚼し、やがてごくりと飲み込むと、シャキ、とフォークでレタスを刺しながら口を開いた。
「ねえ、おばあちゃん、パパとママはいつ帰ってくるの?」おばあさんは一瞬ためらった後、何度目かわからない返事を繰り返した。
「洋ちゃん、もうすぐよ。あともう少しだからね。」
「またか……。」洋治はそう言って、またレタスに取り掛かる。
「洋ちゃんもサラダを食べ終わったらチョコのやつ食べていいからね。」そう言いつつおばあさんは立ち上がって、キッチンの奥にゆっくりと向かった。お菓子を持ってきてあげなければ。
「まりちゃん、お野菜食べたよ!」おばあさんの背に向かって真理が声を投げる。
「はいはい、今お菓子を持ってきてあげるからね、お父さんとお母さんが送ってくれたんだよ。」やっとサラダをやっつけた二人に、おばあさんはチョコレートビスケットのお菓子を手渡たす。二人はありがとう、と口々に言いながら、お菓子の包みを破った。真理は迷わず噛り付いた。甘ったるい匂いがふわりと広がる。ふわりと広がって、ずいぶん昔の記憶をおばあさんに思い起こさせた。あの子もこういう風に頬張っていたものだ……。
「今日はどのお菓子がいいかい?」おばあさんはリビングで遊んでいる二人の子供たちに、キッチンからそう問いかけた。
「まりちゃん、この前のチョコのやつ!」真理は目を輝かせて言う。おばあさんは、
「またかい。真理ちゃんはあれが好きなのね。洋ちゃんは?」と微笑んだ。洋治は一瞬真理を見やり、小さく首を縦に振った。
「ぼくも、おんなじの……。」
「そう、じゃあ持ってくるからね。」おばあさんはキッチンの奥の棚からチョコレートビスケットのお菓子を二つ、取り出した。すると、後ろから洋治の控え目な声が聞こえた。