小説

『洋ちゃんと真理ちゃん』佐々木ささみ(『ヘンゼルとグレーテル』)

「うっ……うん……。」洋治は嗚咽を漏らしながら相槌を打った。
 おばあさんは二人のことが可愛くて可愛くて仕方がなかった。二人はずっと両親の帰りを待ちわびている。いつ帰ってくるのかと聞かれる度に心苦しかった。もうすぐよ、と答えても、すぐにあと一週間、あと二週間と訂正の連絡が入る。おばあさんは、何と説明したらいいのかわからなかった。これだけ帰ってこないとなると、二人が両親に置いていかれたと思うのも無理はないかもしれない。無理はないかもしれないが、口に出して言われると、その可哀想な、切実な響きに咄嗟には対応できなかったのだ。

 洋治と真理は、話しているうちに疲れたのか、ソファで眠ってしまった。おばあさんは二人に毛布をかけて、今度は洗い物を済ませにキッチンに行った。三人分のお皿に水をかけながら、早くこれが五人分になればいいのにと切に願った。
すると、玄関の方から、
「ただいまー!」と声がした。ついに帰ってきたのだ。おばあさんは急いでお皿を水切りかごに立てかけると、玄関の方へ向かった。リビングに入ってきた二人の母、弥栄子はおばあさんが視界に入ると、ぱぁっと晴れやかな表情を見せた。
「ただいま戻りました!」
「まぁ!帰ってくるのは3日後だって言ってたじゃない!」おばあさんは目を見張りながら、弥栄子に声をかけた。
「驚かせようと思って!案外はやく撮影が終わったんですよ。はぁ、日本は寒いですね。真夜さん、本当にありがとうございました。」弥栄子はおばあさんに感謝の言葉を述べた。
「今、平治さんも帰ってきますからね。子供たちは?お部屋ですか?」弥栄子は続けると、リビングを見回した。おばあさんは、
「ええ、ええ。ああ、良かったぁ、帰ってきて。子供たちは部屋で寝ているはずですよ。」と優しい笑みを返した。そのとき、物音を聞きつけて目が覚めたのだろう、洋治と真理が、リビングへ駆けてきた。弥栄子は荷物を置き、しゃがんで手を広げた。
「ママ―!」二人は叫び、母の胸に飛び込んだ。
「洋ちゃん、真理ちゃん!ただいまー!」弥栄子が、二人を抱きしめる。真理はうわーん、と顔をくしゃくしゃにして泣いた。洋治も胸がいっぱいになり、ぼろぼろと涙が頬を伝っていった。ああ、帰ってきた。ぼくは置いていかれてなんかなかったんだ。
「ただいまー!」遅れてリビングに入ってきたのは父、平治であった。
「平ちゃん、おかえりなさい。」おばあさんは平治に呼びかける。平治は、
「真夜さん、子供たちを見ていてくれて、ありがとう。」とおばあさんに笑いかけ、そして、
「洋治、真理、お土産たくさん買ってきたよ。」と両手の荷物を持ち上げてみせた。
「パパぁー!」洋治は弥栄子から離れ、平治に抱きついた。懐かしい父の温もりがそこにはあった。
「よしよし。ほら、これ。お土産だよ。お前たちが喜ぶと思って。」平治は、洋治の背中をぽんぽんと優しく叩きながら、手に持っていた袋を開けてみせた。
 そこには様々なお菓子の箱が入っていた。チョコレート、バウムクーヘン、砂糖がけのナッツにマシュマロ、ビスケット。
「あらあら、まだあなたたちが送ってくれたのがたくさん残ってるのに。」そう言って、おばあさんはにっこりと微笑んだ。

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