小説

『どこからが未来でとわこで俺たちで』もりまりこ(『一寸法師』)

 世間でもいいし、学校の教室どこでもいいけどちょっとお叱りを受けてる人をみると、なんとなくいや無性にかばいたくなってしまう。たぶん小さい頃からの癖だと思う。
うまく適合できないだとか、融通がきかないとか、まわりと調子をあわせられないとか、たぶんシビアな場面が多かったかもしれないからと、むかしをふりかえる。そのせいか非難されたりしている人をみると、とりわけユアサイド的な感情に寄り添いたくなる。

 海辺で子供が怒られていた。ちゃんと歩きなさいって。歩き始めたばかりみたいな子供にちゃんと歩けってすごいよなって、こころの奥がしーんとなって。
俺もしょっちゅう母親にそんなこと言われて育ったし。急ぎ過ぎて、誰かの吸った煙草の火が消されてないことに気づかなくて、足の裏には今でも傷が残っていたりする。
 そんなことを思いつつ、ちょっと、見失いそうになっていた。すぐすぐ気が散って、いま考えていたことが、すぐにはらはらと散ってしまいそうになって、それをあわててかき集めたときは、こんなんだっけ、俺がうしなったものはって我に返っていた。

 花火の後の夜の海をじっと見ていた。空にいくつか咲いた火の花は、描かれたあとたちまち消えて目の奥の残像だけを頼りに、さっきまでの時間を思い起こしている。
 残像のことはあきらめて、海の水面に視線を放つ。
 ゆっくりと漂いながら、まわりの闇を引き寄せて、光をまとっている。
 光が失せているはずなのに、海とはちがう別の生き物が水面に浮かび上がっているかのように、波のまにまに闇が集まっている。
 潮の匂いにまみれてる風を吸い込む。
 そんな時だった。眼を凝らすとなにか器のようなものが浮かんでいるのがみえた。プラスティックゴミか? と思って岸辺に近づくと、それは後ろ向きに漕いでいるようにみえた。
「湖に浮かべたボートを漕ぐように、人は後ろ向きに未来へ入っていく」
 すっごい嫌な感じ、無性に気に障る甲高い声が聞こえて俺は、後ろを振り向いた。
「こっちこっち」
ってよく見ると、波に漂う器、それはさざえの貝殻だったのだけれど、そこにひとりのひとがすっぽりはまっていて、俺に声を掛けていた。
 ちいさい人のようだった。もしかして。

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