小説

『ワールズエンドキャッスル』もりまりこ(『城』)

 ふたりはそれともの方に賭けてみた。そして暮らしてみることにした。
 ふたりの距離が気になるようで、今よりももうすこし右に20度ぐらい傾けた関係を知りたがっていた。
 遥は測量士と付き合うのははじめてで、彼が測量士であるとかはどうでもよくて。それよりも刹那が、いまそこにいることのほうが大事な気がした。

 ある日の休日。キャビネットに入っている蜂のお尻みたいな形のぽってりとした器になにがはいっているのかわからなくて、刹那に聞いた。
 それは、ゆらしてみたらわかるよって、いった。
 なにもみえないしろいうつわのなかに、その液体がどれだけ入っているのか、さだかじゃなくて。
 ゆらした。ゆらす。ゆれる。ゆれた。
 でもわかったようなわからないような。わからないって言おうとおもったら、
 彼は、重さを測ってみたらっていって、赤いハカリ、マイスケールをもってきた。測ってみてもわからないね測りたかっただけって言いながら、その器を刹那が振った。シェイクするみたいに。鈍いぽちゃんっていう音がした。
 今の音、相当やばいねってふたりで笑った。ふたりで測ることに飽きたので、それを戸棚にしまった。もうしばらくしたら、遥はその器のことは、きっと忘れてしまっている気がする。でも、ふたりでなにかを測ったことだけを覚えているようなそんな気がした。

 仕事場の内線電話は、相変わらず混線していた。新子さんのブースにも、どうやら外線電話がまじりあうようになっているらしい。
 遥は刹那と暮らしていることを新子さんに話していない。出会いはともかく説明が難しいのと。新子さんが多分、老婆心っぽい気持ちを抱いてしまうからだと思った。遥は、あの地震からあまり誰とも争いたくないのだ。できたら穏便に暮らしていきたかった。時々思う。新子さんみたいな人がお姉さんか母親だったら、きっとなにかが違っていたかもしれないと。だから、時々新子さんのこころのなかにわけいってみたくなるときもあるけれど。それはやめておく。
 今のままハケンなんだし、死ぬまでうすくうすく生きてゆくつもりだ。

 遥のブースでは最近は迷い子を知りませんか? っていう電話が増えていた。たいていお母さんからで、絶望的な声なので遥は警察の正しい電話番号を教えて対処していた。
 外線電話がまじりあうことが、日常のようになっていたある日。
 初老の男の人から電話が入った。
「あの。迷子なんですが」
 そんな声が聞こえたので警察の電話番号を教えてあげようと思ったら、その人は、息継ぎもせずに話し続けた。
「49歩目でした。忘れもしません49歩目」
「え?」
「夕凪商店街の雑踏で息子が49歩目をちょうど歩いてた時、あの子が手を放してしまって」
「あの、こちらの電話番号は」
「知っています」

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