小説

『私、パンツを被るのが好きなの。』久保ちょこら(『嘘をつく子供』)

 話している間にお店に到着して、個室に案内されると、先に相手は着席していた。1人は坂口健太郎を少し太らせて歳を重ねさせた感じ、もう1人はチュートリアルの徳井義実にそっくりな顔立ちをしていて、2人とも見た目はかっこよかった。
「そしたら、自己紹介しよか!俺は林田省吾っていいます。亜紀ちゃんの友達。こいつは俺の同僚で中山祐樹。よろしくね。」
 仕切り出した坂口健太郎の劣化版が亜紀の知り合いということは、徳井が私に紹介したい人であるようだ。その後、順調に盛り上がり、席替えで徳井と隣の席に座ることになった。隣り合った途端、人が変わったように激しいボディタッチと夜の過ごし方の聞き込みが始まった。もうこの年になると、付き合う前にお互いのことを全て知れた方が効率的なのだろう。体の相性が一番大切と豪語する人がいるほどなのだから。話しているだけで楽しませられるほど口が上手いタイプではなかったが、楽しんでいるふりをしていれば男は喜ぶということを亜紀を観察して学んだ。仕事はIT企業の役員で近々独立するらしく、趣味は船と車だというから、六本木ヒルズ並みの優良物件に違いなかった。この人は絶対に取り逃がしてはいけない気がした。
「美里ちゃん、すごい笑ってくれて嬉しいよ。」
「本当に楽しいんです〜」
 徳井の方も好意を持ってくれているようでひと安心したところで、いきなり亜紀が話しかけてきた。
「そうだよね!美里!」
「えっ?何が?」
「今さ、つい好きな人にしちゃうこと話してて、美里のはすごいユニークで可愛いんだよね?」
「いやいや、そんな。」
 ここで言わせる気か、あれを言わせる気か。
「何々?俺も知りたいな〜。」
 甘い徳井の目線を見まいとしていたが、言わなければこの空気は回収できないようだ。この人を逃すか、それとも、また亜紀から誘われるような人間でいるか、悩んだ末、結局私は後者を選んだ。
「あの…私、パンツを被るのが好きなの。」
「え!めっちゃ可愛いじゃん!」
 驚いたことにこれまでのように凍りつくでも笑いが起こるでもなく、徳井が目をキラキラさせながらまさかの食いつきを見せてきたのだ。
「でしょ〜?美里なりの愛情表現なんだよ〜」
「祐樹、お前ぴったりじゃん?」
 笑う徳井の姿を見てホッとした気持ちを上回る不安に襲われた。
「え、もしかしてそういうのが好きなの?」
「いやいや、そうじゃなくて、ただ可愛いなて。ほらユニークで。普通じゃないじゃん。ね?」
 圭太から別れ際に言われた「普通」という言葉が頭を過った。これが本当は圭太が求めていたことなのかもしれないと、初めて圭太の気持ちが分かった気がした。徳井に諭される私に美里はなぜかウィンクまで送ってくる。何となく察した。なぜ私に合うと連れてきた相手がこの人なのかを。

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