小説

『私、パンツを被るのが好きなの。』久保ちょこら(『嘘をつく子供』)

 翌日、会社で亜紀に遭遇すると、また小悪魔な笑顔で駆け寄って来た。
「あっ、美里〜昨日もありがとう!楽しかったね。」
「うん!こちらこそ!」
「美里もさ、そろそろ踏ん切りつけて次に進んでいいんじゃない?」
「あー、そうだよね…」
「またすぐありそうだから声かけるね!次は美里がちゃんと好きになれそうな人を手配するから〜」
 美里は出くわす度にあまりに大きな声で話すものだから、すっかり社内でも私がフリーになったことは知れ渡ってしまっていた。

 1週間もしないうちに、来週金曜の夜、次の意見交換会を開催するという連絡が亜紀からあった。ちょうどその日は渋谷で年次別の社内研修があったため、亜紀と一緒にお店まで向かうことにした。
「美里!お疲れ〜」
 待ち合わせ場所で背中に話しかけてきた亜紀の声は早くもあの猫なで声になっていた。リブニットにスキニーパンツという、ワンサイズ、いやツーサイズ上げた方が良かったのではないかと思うほどぴったりの服装だった。亜紀の勝負服は肩か谷間か足が出ているものだけではなく、全身タイツのパターンもあると知った。いやはや、夜の男たちを惹くために、昼の講師の人たちは引いた目で見ていたに違いない。
「今日の服可愛いね。オフショル似合うじゃん!」
 一方の私は前回の亜紀の服装を真似てショルをオフしてみた。肩幅が大きいことがコンプレックスだったが、思い切り見せてしまった方が目立たなくなるようで、意外に似合っていると思う。
「そうかな?ありがとう〜亜紀もスタイル抜群だね。」
と言いながら、あまり胸が大きくない人ほど、なぜか胸の形がはっきりとわかる洋服を着たがる不思議を考えていた。私もとうとう心が荒んできたらしい。
「今日はね、美里にぴったりの人連れてきてもらえそうなの!見た目もすごいかっこいいんだって!」
 亜紀主催の合コンは基本的に主催者同士のために開かれているといっても良いほど、亜紀が既に知り合いの人との仲を深めるためのものばかりかと思っていたが、今日は私のためのものらしい。
「ハードルあがっちゃうな〜ちゃんとお付き合いも考えてくれる人だといいな。」
「大丈夫!遊びとかじゃなくて、ちゃんと彼女欲しい人を連れてきてって再三伝えたから!」

1 2 3 4 5