小説

『私、パンツを被るのが好きなの。』久保ちょこら(『嘘をつく子供』)

 結局その後、亜紀は主催者の男と同じタクシーに乗って帰って行った。亜紀は安めぐみのような見た目に似合わず毎晩のように男を取っ替え引っ替えしている、所謂清楚系ビッチの典型なのだが、社内外で男女問わず受けが良く人気があり、亜紀に憧れる同僚も少なくなかった。もう一人の男から私も誘われたものの、派手な見た目に似合わずチキンな(ビッチ系清楚という言葉がちょうど良いかもしれない)私は断り、自宅に戻った。

 数日間、なぜかあの日の出来事ばかりが思い返され、抑えきれないニヤニヤを撒き散らしながら会社の廊下を歩いていると、亜紀が笑顔で駆け寄ってきた。
「ちょっと〜美里!本当この前ありがとう。最高に楽しかった!盛り上げてくれる女の子が不足してたから、なかなかああいう意見交換会開けなくて困ってたんだあ。」
「こちらこそありがとう〜そういえば、亜紀、あの後はどうなったの?」
「そんなのもちろんお家行ったに決まってるでしょ?美里も少しは気紛れたかな?」
 そういえば私はあの合コンの後、全く圭太のことを考えなくなっていた。久しぶりの失恋は立ち直り方さえも忘れていたが、こうやって新しい時間の過ごし方で埋めていくのが効率的のように思えた。
「うん!良かったらまた誘ってくれないかな?」
「ならね!ならね!優良案件があって…すぐ連絡する!」

 それから2週間後、亜紀に誘われ早くも2回目の合コンに参加していた。なぜか前回同様、下ネタの話で盛り上がっている。やはり初めて会った人と手っ取り早く距離を縮める最善の方法は下ネタのようだ。
「亜紀ちゃんってどういうのが好きなの?」
「いや、私はそんな普通で十分ですよ〜。」
 狙った男に話しかけられると、亜紀はオフショルのショルをよりオフにする癖があるようだ。
「美里は、ね?美里はそういう所すごい面白いんです〜。ね?」
「いや、そんな。」
「え〜、なに?教えてよ?」
 男の食いつきようと、亜紀の話の振り方で察した。私は完全に盛り上げ要員で呼ばれているようだ。
「パンツを被るのが好きで…。」
 やはり何故かその場は笑いに包まれ、その後はパンツの話題で持ちきりになった。一度目は悲劇、二度目からは喜劇という言葉があるが、その言葉通りだ。もはやこの雰囲気を楽しんでいる自分がいた。結局亜紀は狙っていた男にまた持ち帰られ、私は誘いを断り、自宅に戻った。

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