「それじゃ、君はいつかいなくなるかもしれない。悪いけど、そういう可能性を全て排除するには、この方法しかないんだ。夢の中では、俺たちは周りに引き裂かれて、一緒にいられなかった。俺はこの人生で、果たされなかったことを全うしなくちゃいけない。そうしないと、また次に引き継ぐことになる。叶えられなければ、夢は繰り返される。君は忘れてしまっていても、本当は、俺たちはどうしてもお互いが必要なんだ」
男は淡々と言葉を並べて見せた。行動の動機は明確になったけれど、そのせいで、忘れかけていた彼女の恐怖はぶり返した。
「あなたが、もうその夢を見ない為に、私ずっと、あなたと一緒にいなきゃいけないの?」
「そうでなきゃ、夢から解放されない」男はそう言って、彼女の手を掴んだ。「君を見つけるのには苦労したんだ。君にたどり着くまで、本当に、すごく辛くて大変だった。これは、君を幸せにする為でもあるんだよ」
彼女は恐ろしくて動けなかった。何を言うこともできないまま、しばらくただ手を握られていた。男が部屋を出てから、急にどっと疲れを感じ、ベッドに入ると、そのまま眠ってしまった。
次の日、目が覚めると、もう朝食がテーブルの上に置いてあった。昨日のショックでぐっすり眠ってしまったが、食欲は湧かなかった。シャワーを浴びても、まだ疲れている感じがして、眠気も残っていた。すぐにベッドに戻って、また吸い込まれるように眠りに落ちた。
体を揺すぶられて目が覚めると、目の前に男の顔があった。彼女は思わず、男の手を振り払った。
「・・・・・何?」
「大丈夫か?」
「え?」
「ずっと眠ってたのか?」
「え・・・・・」
彼女は訳のわからないまま起き上がった。ふとテーブルに目をやると、朝食が、そのまま残っていた。
「もう夜だけど、今日、何も食べてないの?」
男に訊かれ、自分でもそれをゆっくりと認識しながら、彼女は頷いた。夕食を用意してもらったけれど、殆ど食べられなかった。あんなに欲しかったチョコレートすら、食べたいと思わなかった。体がだるくて、またすぐにベッドへ戻った。
「ねぇ・・・他の皆さんは?」
彼女は部屋を出て行こうとする男に向かって、朦朧としながらそう言った。それが、自分が発している言葉だという認識すら、うまくできなかった。
「・・・・君、今、なんて言った?」
「皆さん・・・・・どこにいらっしゃるの?」
男はしばらく黙っていた。それからベッドまで来ると、彼女の耳元で、暗示をかけるようにこう言った。
「この家には、俺と君しかいないよ」
「本当に?」