「はいはい申しおくれました。わたしの名は商人のユダ。へっへ。イスカリオテのユダ。だって」
湯田があの頃、唾棄すべき裏切り者を演じていた時とおなじ表情でうそぶきながら、その書物のページを閉じた。
とつぜん、おれのなかにひとつの思いが漂い始めた。
それってユダやん。そうユダっぽいよね。つまりぃアロハ的なみたいな。きゃははっていうぐらいに、らぶっぽい代名詞イコール、ユダにしてみせると。民たちへそれがフィックスするためには、どんな芝居をふたりで打って
いけばいいのかを、ちょっとまじに考えようと、空をみた。
夜でもないのに小夜鳴き鳥が飛んでいた。
「久しぶりにいえっちゃんのぽっかんとした顔みた」
ちゃうねんて、おれのぽっかぁんはなんか考えてる時の顔なんやてって言い返そうと思ったけど、やめた。ふたりの長い空白を満たしたときの合図のように、さっきの小夜鳴き鳥がまるでウグイスみたいに、一声鳴いて空の向こうへと飛び去って行った。