小説

『をと』鴨カモメ(『浦島太郎』)

 電話を切って部屋に戻るとばあちゃんはちゃんとそこにいた。
「お茶でも入れましょうかね」
 おふくろが言うと絵里も微笑み「はい」と返事をした。絵里の目にもう涙はない。哲太はいつの間にか絵里の腕の中で寝息を立てていた。
 みんながリビングに行ったのに親父は一人、箱の前にじっと座って1枚の写真を見ていた。その顔は皺が増え、白髪も増えて背中も丸い。
「親父、齢とったな」
 すると親父は俺に持っていた写真を手渡した。そこにはばあちゃんに叱られて大泣きしている幼い姿の俺とカズの姿が映っていた。
「お互い様だ」
 親父はそう言うとしわくちゃの顔で笑った。

1 2 3 4 5 6 7