*
次期国王についての噂が広がる頃、ジャックとスプラットは割り当てられた食堂で夕食をとっていた。
「なあ、そんなに落ち込むなって」
ジャックはフォークを持ったままサラダを見つめるスプラットを励ました。
「アルフレッド国王は実に理想的な元首だったのだ……私のような異国人の話しをあんな熱心に聞き、ここまで親切な対応をしてくれるなど……」
「誰しもいつかはこうなるもんさ。それにしても、次期国王はお前じゃないかって噂が広がってるぜ」
「私がそのような器ではないのはジャックがよく知ってるだろう。良い迷惑だ」
スプラットは思いつめたように俯いた。
「そりゃあそうかもしれないが、まあお前みたいなのが王様ってのも見てみたいがな。おい、こいつは貰うぜ」
ジャックはスプラットの分のチキンソテーを自分の皿に移しながら言った。結局スプラットはそのまま食事を全くとらなかった。
それから民衆の期待が高まるのに比例するように、スプラットは衰弱していった。何も食べぬままベッドに横になっていることが多くなり、ジャックが面倒を見てやった。あるとき、相変わらず食事を受け付けないスプラットを見兼ねたジャックは怒ったように言った。
「おいスプラット、良い加減にしろ! このままじゃ死んじまうぞ!」
ジャックの大声にスプラットは久方ぶりに目を開けた。
「ああジャック、いたのか。すまないな……私はもうダメだよ」
「なに言ってやがる!」
「ひとつ、頼みを聞いてくれないか」
スプラットは絞り出すように続けた。
「右舷に一人用の緊急ポッドがあるだろう。あそこまで私を運んでくれないか……」
「おまえ……。ふざけんな!」
「そう言うな。もはや私にはこの宇宙船も棺桶のようなものなんだ。なあ……頼むよ、一生のお願いだ」
スプラットの悲哀に満ちた眼を覗き込んだジャックは、もうスプラットの言うことを聞くしかなかった。ジャックは痩せ細ったスプラットをポッド内に運び込んだ。シートに小さく収まったスプラットは言った。
「ジャック、ありがとう。君には助けられてばかりだったな。これはお返しだ、気をつけて持っていてくれよ」
そう言ってスプラットは、ジャックに豆のタネを一つ手渡した。
「これは……」
ジャックは驚いて言葉を呑んだ。
「そいつは特別なタネだからな。私の研究の結晶だ」
そしてスプラットは最後に自らハッチを閉めながら言った。
「君はああ言っていたが、私はジャックが王になるのも見てみたかったよ」