小説

『Jacks or Better』柊野ディド(『ジャックと豆の木』『マザーグース』『ジャック・スプラット』)


スプラットを乗せたポッドが離れていくのを窓越しに見ながら、ジャックは心を決めていた。わかった、じゃあオレが王を引き継いでやるさ。
それから瓜二つのジャックは髭を剃り落とし、スプラットになりすました。周囲は疑うことなく、むしろ王の威厳を備えたジャックを民衆は讃え、献上品が届けられるようになった。ジャックは届けられた良質な肉や野菜を食べて見せた。
その様子の報告を受けたランタン艦長は、それをさらにジャクジャク局長に報告した。
「ジャックは決心したのでしょう。人が変わったように民衆と接するようになり、その前で献上品の食料品などもすべて平らげたと聞いています」
「そうか……ん、すべて、というのは」
「すべて、です。上質な肉も野菜も……」
「肉も?」
「ええ」
「それは妙だな。スプラットは菜食主義者と聞いているぞ。そういえば、もう一人のジャックはどうしてる?」
「そういえば最近そちらのジャックについては報告が入っていません……」
「まずいな。二人のジャックは瓜二つと聞いている。もしかすると……」
「まさか! 入れ替わっていると?」
「可能性がある。至急調査してくれ。ジャックは二人いなければならない。もし一人しかいないのならば船から追放して構わん!」
ほどなくして、ジャックは王国軍によって民衆の目の前で捕らえられた。動揺する民衆を前にランタン艦長は問いただした。
「お前はスプラットではないな?」
「だったらなんだ!」
「スプラットはどこにいる?」
「あいつは、スプラットは気が滅入っちまったんだ。それで一人緊急ポッドで……」
「認めたな! 皆のもの、聞いてほしい。こいつはアルフレッド国王の遺言に当たるジャックではない。瓜二つの偽者で、しかもJ国の人間だ!」
「なんだって! 危うく王国が乗っ取られるところじゃないか」
「王位に目が眩んだんだコイツは!」
民衆は声を荒げた。ジャックは取り押さえられながらも絞り出すように叫んだ。
「違う! 俺はスプラットの意志を継ごうとしたんだ!」
反論も空しく、ジャックはあっという間に緊急ポッドの一つに詰め込まれ、本船から切り離されてしまった。どうしてこんな目に遭わなきゃならんのだ。今度は俺が振り落とされるハメに……。俺はなにも悪くなかった…はずだ。また何か楽をしようとしたとでも? ジャックは途方に暮れながら独り言ちた。そしてポケットに仕舞ってあったスプラットのタネをぎゅっと握り締めた。

1 2 3 4 5 6 7 8 9