小説

『M』浴衣なべ(『桃太郎』)

 生物には多様性というものがある。幅広い性質を持つ個体が一つの集団の中で同時に存在していることを言うのだけど、例えば、一つの群れになにか起こったとき、同一の性質を持つ個体の群れよりも、幅広い性質を持つ個体の群れの方が全滅のリスクが低い。これを人間に当てはめると、問題を解決する場合、様々な考えを持つ人間を集めた方が多角的に思考できるということだ。
だから、クローンとして生を受けた私とシュウも、全く違う性格に作られていた。
「今日も綺麗」
 私は強化ガラスに両手をあてるとのぞき込む様にして地球を眺めた。宇宙船から見る青い星はとても大きいはずだが、ここから距離が離れすぎているせいかひどく頼りなさげに見えた。そこは、遥か昔、人類が繁栄していた場所だ。
「ねえシュウ」
「なんだエミリー」
 シュウは読んでいる本から顏を上げるとこちらを見た。
「どうして地球に降りちゃ駄目なの?」
「何回も言ってるだろ」
 シュウはやれやれと言わんばかりに大きな溜息を一つついた。
「ここから見る地球はもう元に戻ったように見えるけれど、実際はまだ人間が生活できる環境じゃないんだよ。大気の汚染が浄化されるまではまだまだ長い時間が必要なんだ」
「そんなこと、言われなくても知ってるよ」
「だったら聞くな。だいたい、毎日毎日眺めることに何の意味があるんだ。それで地球の環境よくなるわけでもないだろ」
 そう言うとシュウは本に目を戻し、本格的に本の世界に入り込んでしまった。
 ふんだ。自分だって何回も読んだ本を飽きもせずまた読み返してるくせに。本よりも地球の方が変化ありますよーだ。面白味のない男シュウのことはほっといて私は再び地球を観察することにした。
太陽の光を受けて煌めく地球は本当に美しい。表面積の七割を占めている海は深さや水質により濃淡が違うので同じ色をしている所はないし、不規則に漂っている雲はコーヒーに垂らしたクリームみたいに延びたり縮んだりして面白い。刻一刻と姿を変える地球は、いくら眺めていても飽きることがなかった。
 どうしてシュウにはこの感動が伝わらないのだろう。一度読み終わった本を繰り返し読む方がつまらないと思うのに。色々理由を考えてみたけれど、やっぱり私とシュウは違うふうに作られているからだろう。
 私は背が低くてシュウは背が高い。私は青い目をしていてシュウは茶色い目をしている。私は髪が金色でもふもふしているけど、シュウの髪は黒くてさらさらしている。私は昔から艶のあるシュウの髪が羨ましいのだけど、当の本人は髪のことなどどうでもいいと思っているようだ、どうして、私たちを作った人は私とシュウの髪を逆にしなかったのだろう。きっと私の方があの黒髪は似合うと思うのに。

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