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JJ003号の出発前夜、ジャク・ランタンは先に出発したジャクジャク局長に定時の報告をしていた。
「J国の二人の手続きは無事済みました」
「そうか、ご苦労だった。二人がJ国の人間であることは伏せているな」
「はい。JJ003号でそのことを知っているのは私と国王、そして国王の側近の数名だけです。それにしてもどうして異国人を乗船させるんですか」
ジャク・ランタンは語気を強めてそう言った。
「多様性のため、だそうだ。それになにより、地上の話を聞きたがったのは陛下だ」
「陛下が?」
「そうだ。私も陛下の命がなければこんな危険なことは認めん。できる限り二人には陛下との時間を持ってもらうが、くれぐれも用心してくれよ」
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JJ003号は打ち上げられ、無事軌道航路に乗った。そして太陽から遠ざかり続ける宇宙の旅を始めた。
旅の途中、とくにスプラットはアルフレッド国王に頻繁に謁見し、地上の動植物や人々の暮らしについて語り続けた。国王はよくスプラットの言葉に耳を傾け、その様子を夢想するように、満足げな表情を浮かべていた。ジャックの方は国王に謁見することはほとんどなく、ただ広大な宇宙船内を歩き回ったり、機窓から星々を眺めたりして時間を潰していた。
移住を始めて一年が経とうとする頃、アルフレッド国王の病状は急変した。死が間近に迫っていた。息をひきとる直前、アルフレッド国王は側近にこう言い遺した。
「なんとかして、ジャックを王にしてやってくれ。彼のように知見の広い者が新天地では王足りうるだろう」
この王の遺言は艦内に瞬く間に広がり、動揺と賛同を巻き起こした。ランタン艦長はJJ001号のジャクジャク局長に国王逝去の報告をした。
「そうか……」
画面越しに見えるジャクジャク局長は狼狽したようだった。
「いかがいたしましょうか」
「とにかく……」ジャクジャク局長はなんとか言い繋いだ。「王のご遺体は冷凍保存しろ。葬儀はジーン=ジャックに着いてから執り行う。次期国王についても向こうに着いてから議会に掛けるとしよう」
「承知いたしました。しかし、アルフレッド国王の遺言は艦内の民衆には知れ渡っています。その動揺はいかがいたしましょうか」
「うむ。民衆は反対しているのか?」
「いえ、王のお気に召していたのは確かですし、民衆の人気は決して低くもありません」
「そうか。ならばとりあえず何も公言する必要はあるまい。ただ一点確認だが、王の言ったジャックというのはスプラットのことで良いな?」
「ええ、もちろん。ジャック・スプラットのことでしょう」
ランタン艦長は毅然としてそう答えた。