また、それらの規模を支えたのは、川中氏の声のかかった親族、およそ五十人ほど。最初に出迎えてくれた老女はその筆頭で、自分と親族との中立を務めてくれた。彼女は「ばあば」とよばれる本家の家政婦であり、家の中においては妻よりも機動力を持つのだという。そのおかげもあって、何事も滞らず極めてスムーズに進んだ。
そしてこれは、当代としては初めての規模でもあった。この身の自信に繋がったのはもちろんのこと、新たな他店舗や客層などへの紹介も受けて、大変に有意義な経験をいただいた。
しかしそれでも、あのミイラじみた遺体の謎だけは、頭から消えなかった。
その数ヶ月後、川中氏から連絡がきた。今後における、自身や親族の葬儀のことで、ちかく顔合わせをしたいという。日時が指定され、ふたたび川中邸へと出向いた。
夏も盛りで、さすがに暑い。それでも庭園に入ると樹木のせいか、市街地よりは涼しい風が抜けてゆく。
「――ようこそ黒良さん、お待ちしておりました」
迎えてくれたのは、やはり、ばあばさんだった。案内されたのは、渡り廊下の先にある離れだ。
「あれは、蔵、ですか?」
そう聞けば、ばあばさんは、にっこりと笑う。
「こんな日は、中は格別に涼しゅうございますよ」
空調の無かった時代、そうした部屋で涼むのが流行ったのだそうだ。
「黒良さんが、お見えになりました」
招かれてみると、たしかに室内は優しい涼しさで満ちている。窓がなく、陽光や外気を遮断できるせいかもしれない。かわりに、年代物の照明が施されていた。
「よく来てくれたね」
小さな洋風の、彫り物の入ったテーブルを前に、川中氏は座っていた。スタイリッシュなスーツを着ていて、先日よりもずっと若く見えた。
すすめられて、向かいに腰掛ける。ふと気がつくと、奥には巨大な鏡があつらえてあった。
ズウゥゥン……
背後では、重たい音をさせて扉がしめられた。
「暑い中、ご足労をかけた。どうぞ、ただの水だが」
細かな切子で飾られたグラスが差し出される。飲んでから、ただの水、とは謙遜であることがわかった。どこの名水なのか、透明な清々しさが喉を通る。そうするうちに、薄暗さにも目がなれてきた。
「……?」
すると突然、妙な感覚にとらわれた。繊細かつ美しく仕上げられているが、この部屋は、なにかと似ていた。小ぶりの机、椅子にライト、壁をおおう大きな鏡――これがマジックミラーだとしたら、まるで取調室だ。
くす、くす、くす。