小説

『葬儀屋』空亡(『河童(妖怪)の伝承』)

 つい私は心の中で、その幻聴に語りかけていた。
 我が家では代々、こういった尋常でない葬儀を引き受けてきたのか? もしかしてそれで、この鉄面皮が必要だったのか?
 父さんのうなずく顔が、見えたような気がした。
 私は観念した。
 つまりは、誰かが遺族の悲しみを正しく受け止めなければならないのだ。たとえそれが何者であろうとも、ときに殺されたとしても。
「――はい、承りました。ご安心ください。お母様がゆっくりとお休みになれる棺を、ご用意させていただきます」

1 2 3 4 5 6 7 8 9