小説

『勇者はおばけの如く』鈴木沙弥香(『桃太郎』)

 思わす張り上げた声に3人が僕の方を向く。
「あの……僕に何か用なんですか? 何かして欲しいからこう……姿を見せてきたんですか? 僕霊感とかないし、いきなり見えるようになったのもおかしいっていうか……」
 3人は互いに顔を見合わせ「あぁ」と何かに納得したようだった。
「あたしら、あんたに協力してあげる」
「え?」
「お兄さんをいじめてたやつらを懲らしめてあげるってこと」
 幽霊にあいつらを懲らしめてもらう。それを幽霊側から持ちかけられる。裏がないわけない、と僕の危機察知能力が働いた。
「なにが望みですか?」
 僕の一言に、幽霊たちの顔色が変わる。
「それ。あんたの腰につけた寿命、あたしたちに分けて欲しいの」
 僕は思わず自分の腰を見つめてしまった。
「は?」
「人間には見えないかもしれないけど、あんたの残りの寿命は、あんたの腰に小さい巾着みたいにいっぱい付いてるの。ちなみに1袋に3年分の寿命、まぁわかりやすく言うと魂が入ってるって感じ。それをあたしたち3人に1袋ずつ」
「3人に……」
「そう。つまり9年分の寿命と引き換えにいじめっ子退治に協力してあげるってこと」
 寿命と引き換えにいじめっ子退治って……。
「いや幽霊が寿命もらってどうすんの?」

 
 幽霊にも寿命があり、それは彼らが人間界に居られる年数のことを表しているらしい。寿命が尽きれば自然と成仏でき、あの世へ行けるが、どうやら寿命を欲する幽霊たちは人間界に未練があるという。
「なんか窮屈……」
 たいして広くもない僕の部屋。まさか初の来客が幽霊だとは、誰が聞いても信じてはくれないだろう。
「詳しくはウチでって言ったのはあんたじゃん」
 眉間に皺を寄せてチサはそう言った。女の子を下の名前で呼ぶのはだいぶ勇気がいったが、彼女がそうしろというから僕はそれに従っている。
「だから僕たちは人間界に未練を残すことなく成仏したいんです。このままじゃなんか気持ち悪くて……」
 冷静に話の続きを始めたのは10歳だというコウタ君だった。
「どうして未練を解決するのにそんなに時間が必要なの?」
別にそれぞれにどんな未練があるかなんて聞こうとは思わなかったけれど、純粋に僕の中で疑問が湧いたのだ。何年もかけなくては晴らせない未練なのか、と。
 「は、晴らしたくても、は、晴らせないんです」
 悲しむようにサラリーマンだったというケンジさんが答えた。
「簡単に説明すると、あたしたちはどんなことがあって死んだかってことは何となく覚えてる。けど、それに関わった人……というか、家族とか友達の顔が全然思い出せないの」
「顔だけ?」

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