小説

『勇者はおばけの如く』鈴木沙弥香(『桃太郎』)

「ねぇ、やっぱこの人死ぬの?」
「うわぁぁぁぁぁ」
 耳元で聞こえた声に思わずナイフを放り投げて叫んだ。反射的に目を開けると、目の前には見知らぬスーツ姿の男と学生服姿の女、そして半袖半ズボンの少年がいた。
「あ、見えた?」
 目つきの悪い、いかにも強気そうな女が訝しげにそう言った。
「うわぁぁぁぁぁ」
「ごめんなさい、驚かせちゃって」
 少年が僕に手を差し伸べる。
「じゃ、邪魔してごめんなさい」
 ボソボソと話し出す男。なんだこの3人。どう考えても中学校には不釣り合いだ。
「だ……誰、ですか」
 やっと絞り出せた声は自分でも笑えるほど裏返ってしまった。もちろん笑える状況ではなかったけれど。
「なんていうか、あたしたちはここの住人」
「それ、不法侵入です……」
「いいのいいの、だってあたしたち死んでるから」
 僕の額からはツーっと汗が流れ落ちる。暑いはずなのに、どこからかひんやりした風が肌を撫でた。当たり前のように言われた言葉は僕の頭の中にすんなりと入ってきた。確かに幽霊、じゃなきゃこの状況は説明がつかないのだ。
「ねぇ、この人動かなくなっちゃったよ」
 金縛り? いや、これは僕の身体が恐怖に支配されているからだ。あぁ、この感じ、あの時に似ている。
「おーい」
「現実逃避かな?」
「ま、まさか、し、死んでないよね?」
 もしかしたらこの暑さのせいで頭がやられてしまったのかもそれない。あぁ、もうほら。クラクラ、ユラユラ、視界がぼやけていく。
「ちょっと! 大丈夫?」
 死にたかった。というか、あんたたちが居なければ僕は死ねたのに。僕はここで失神して誰かに発見されて、死ぬことにびびって熱中症になったアホだと思われるに違いない。最悪だ。くそ、幽霊の馬鹿野郎。
「誰が馬鹿野郎なのよ」
 意識を手放す寸前、女の手が僕の頬を強打した。痛い。普通に、痛い。不幸中の幸いか、僕はそのおかげで意識を取り戻した。
「な、なにするんですか……」
「馬鹿野郎とは何事よ。せっかく助けてあげようと思ったのに」
「チサちゃん可哀想だよ。この人散々いじめられてきたんだから」
「さ、流石に、い、今のは痛いと思うよ……」
 もう痛みとかはどうでも良い。まずはこの状況を説明してくれ。
「あ、あの!」

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