小説

『心礼動画』洗い熊Q(『東海道四谷怪談』)

 これはあるカップルが地元で有名な心霊スポットで撮った映像だ。

 昼過ぎなのに薄曇りで陰気な景色の神社。戯れながら社に向かう道中。参道を囲む枯れ木の幹には不気味に意味不明の札が打ち付けられる。
 一本の幹をまじまじと見つめる二人。他には人影ない筈だった。
 言い知れぬ視線を感じて、彼のカメラが上方へと向けられた瞬間だ。

 恨めしい目で、二人をじっと睨む逆さまの青白い女性の顔が。
 ――きゃーーー!

 

 
「……はい、OK。もう下りていいぞ~沢子~」
「は~い」

 私は嶋沢子。
 幽霊役で木に登ってぶら下がっていたのが私。
 これは心霊動画の撮影。監督の直樹の発想は素晴らしく本当の怖い映像を撮ります。これも良い映像が出来たと。

「沢子、一人で下りれるか?」
「ちょっと無理かも」

 地味な役でも全力で。何時も指名してくれる直樹の為にメイク技術も駆使して。女役でも男役でも本物以上の恐さを出して。
 夢への一歩と考えて幽霊を全力でやっていました。

「沢子? なに振り払ってるの?」
「あ、いや、虫がね」

 実はこの時、隣に私と同じ様にぶら下がっていた男性が。他の人には見えません。
 映り込まない様に追っ払っていたんです。私は本物の心霊が見えます。
 直樹の作品には私しか写らない様にと。少し旋毛曲がりだったかも知れませんね、私。

 
 幼い頃からそういう者が見えていた私。風変わりな子として周囲から疎まれるのは必然。
 でも夢はありました。
 古風でシックな街並みをバイクで二人乗り。そんな情景が似合う映画女優に憧れて。
 人知れずに演技を化粧の練習を。そのせいか仲の良い友人は少数でした。学生になっても見た目、雰囲気が陰気だとは自覚して。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11